バイエル薬品、「定期補充療法」が乳幼児期の関節内出血による関節障害進行抑制に有効
遺伝子組換え型血液凝固第VIII因子製剤の定期補充療法が小児血友病Aにおける関節障害を予防
画期的な研究論文がニューイングランドジャーナル・オブ・メディシンに掲載
●血友病Aにおける早期からの定期補充療法の重要性を示唆
●血友病Aにおける関節障害の進行について新たな知見
*本資料は、8月9日にバイエル ヘルスケア社が発表したリリースの抄訳です。
2007年8月9日、ベルリン、ドイツ ― 本日発行のニューイングランドジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)に画期的な研究論文が発表されました。その報告によると、血友病A患者さんに遺伝子組換え型血液凝固第VIII因子製剤を定期的に注射する「定期補充療法」が、乳幼児期の関節内出血による関節障害の進行抑制に有効であることがわかりました。これは、重症型血友病Aの小児を対象に、遺伝子組換え型第VIII因子製剤の定期補充療法(*1)と出血時補充療法(*2)を比較した、世界初で唯一の無作為化前方視的試験です。本試験において、6歳の時点で関節が正常な血友病A小児の割合は、出血時補充療法群では55%のみであったのに対し、定期補充療法群では93%でした。
この「ジョイント・アウトカム試験」と呼ばれる5年間の臨床試験に参加した患者さんは、遺伝子組換え型第VIII因子製剤として、コージネイトR製剤(遺伝子組換え型血液凝固第VIII因子製剤[オクトコグ アルファ])による治療を受けました。欧州では、コージネイトRバイエルは、血友病Aでの出血時治療と出血予防を適応として承認されていますが、米国では、コージネイトRFSの予防的使用は認められていません。この多施設試験は、全米15ヶ所の学術機関および主要医療施設が参加し、米国疾病管理予防センター(the Centers for Disease Control and Prevention)と米国国立衛生研究所(the National Institutes of Health)との共同で行われました。
本試験の責任医師であり、指導者でもあるマリリン・マンコ‐ジョンソン医師(コロラド州山岳地域血友病血栓症センター長、コロラド大学 デンバー健康科学センター)は以下のように述べています。「この試験結果は、生後6ヶ月から30ヶ月のうちに、定期補充療法を始めることが、血友病Aによる関節内出血を防ぎ、関節機能を守る効果があることを示唆しました。さらに、血友病Aの子どもたちだけでなく、医療従事者にとっても、適切な治療を促すための有力な情報となります」。
関節内出血を繰り返すことによって生じる関節障害は、しばしば血友病性関節症と呼ばれ、血友病Aの合併症のうち最も苦痛を伴い治療費用のかかるものの一つです。長期の炎症と関節の損傷は、最終的に運動機能の喪失(*3)につながります。しかしながら、これまでの後方視的な臨床試験によって、小児患者が慢性的な関節障害を起こす前に、第VIII因子製剤の定期的な注射を行うことで、血友病性関節症を軽減できるかもしれないことが示唆されてきました(*4,*5)。今週NEJMに発表された無作為化比較臨床試験の結果は、定期補充療法と出血時補充療法による関節症状の転帰を比較することで、今までで最も説得力のあるエビデンスとなりました。
「この試験結果は、重症型の血友病小児が同一関節内での出血を繰り返す前に、定期補充療法を開始することの大切さを示しています」と治験責任医師であるキース・フーツ医師(テキサス医科大学 ヒューストン校 小児科教授/小児血友病部門長)は述べています。
本試験に参加された方々のうち、関節での顕在性出血の繰り返しがない、あるいは少ないにも関わらず、関節障害が認められたグループがありました。試験責任医師らは、無症候性出血(無症状で気づかれずにおこる出血)が、関節障害の進行に関係していることを示唆しました。定期補充療法により、無症候性出血の予防も可能であると考えられています。
この試験では、最新の磁気共鳴造影法(MRI)を用いて、関節障害の初期徴候を診断しました。試験期間の最終年(5歳か6歳くらい)までに、出血時補充療法群において、定期補充療法群と比較して、有意に多くの重度関節障害および軟骨障害の症例が観察されました。
「バイエルは、治験に参加した子どもたちの治療に1,700万単位の遺伝子組換え型第VIII因子製剤を寄付し、この有意義な試験の一助となれたことを誇りに思っています。また、しばしば苦痛を伴うこの疾患を抱える世界中の数十万人もの人々が受ける医療の質を改善し、また、彼らの生活の質(QOL)を向上するために、さらなる研究開発に注力していきます。」とゲオルグレム医師(理学博士、バイエル・シエーリング・ファーマ社 臨床開発部門長)は述べています。
【試験方法】
この5年間に渡り続けられた、複数施設での無作為化試験は、全米15ヶ所の血友病治療センターで行われ、生後6ヶ月から30ヶ月までの血友病Aをもつ男児が参加しました。この試験は、米国疾病管理予防センターおよび米国国立衛生研究所(NIH)からの研究費で行ったものです。また、血友病止血研究会が各施設における患者さんの募集に貢献しました。そして、バイエル ヘルスケア社は、試験期間中に子どもたちに投与する1,700万単位の遺伝子組換え型血液凝固第VIII因子製剤を寄贈しました。試験に参加した子どもたちは、第VIII因子製剤を一日おきに25単位/kgの定期補充を受けるグループ(n=32)と、関節内出血が起きるたびに合計80単位/kgを最低量とする出血時補充を受けるグループ(n=33)に分けられました。これらの子どもたちが6歳になるまで続けられ、障害を受けやすい肘、膝、足首における骨と軟骨のダメージをX線とMRIを使って評価しました。さらに、関節の機能、関節内出血の回数、製剤使用量についても調べました。
【試験結果の詳細】
定期補充療法群の子どもたちは、出血時補充療法の子どもたちに比べて、一年間あたりの関節内出血の回数が有意に少なく(0.63 vs. 4.89)、また、年間の総出血回数も少ない(3.27 vs. 17.69)という結果でした。6歳時にMRIで評価を行うと、出血時補充療法群では、55%しか正常な関節を維持できなかったのに対し、定期補充療法群の93%が正常な関節を維持していることがわかりました(p=0,002)。これは、早い時期から定期補充療法を行うことで関節障害のリスクを84%低減させることができることを意味します。関節内出血症状とMRIで求められた関節スコアとの相関性は弱いものでした(r=0.22,p<0.001)。MRIで観察された骨と軟骨の障害は、出血時補充療法群では45%に見られたのに対し、定期補充療法群では7%でした(p=0.002)。
【コージネイトFS/コージネイト バイエルについて】
コージネイトFS(米国での製品名)およびコージネイト バイエル(欧州での製品名)は、血友病Aの治療を目的とした遺伝子組換え型血液凝固第VIII因子です。欧州で、KOGENATE Bayerは、血友病Aでの出血予防を目的に使用できますが、米国でコージネイトFSは予防目的に使用することができません。最も多く報告されている有害事象は、注射部位における皮膚反応です。製剤中の成分に対して忍容性低下あるいはアレルギー反応を起こす方にはコージネイト製剤を使用することはできません。また、マウスやハムスターのたん白に対して過敏症を起こす方もコージネイト製剤の使用は控えたほうがよいでしょう。重要事項が書かれた処方上の注意を御覧になってください。
・Germany:www.kogenate.de.
・United States:www.kogenatefs.com.
・United Kingdom:www.kogenate.co.uk.
・上記以外の各国については、それぞれの国のバイエルの担当者にご連絡下さい。
・または、日本:http://www.bayer.co.jp/hv/products/
【血友病Aについて】
血友病Aは、血液凝固第VIII因子欠乏症または古典的血友病とも言われ、先天的に血液を固めるたん白が欠乏あるいは少ないために止血が困難となる疾患です。血友病Aは、血友病の中で最も多いタイプで、血液凝固第VIII因子の欠乏または不足により起こります。血友病Aの特徴として、筋肉、関節、内臓などに、長期にわたる、または原因不明の出血が起こります。世界中で約400,000人、日本では約4000人の患者さんがにいるとされています。
【バイエル・シエーリング・ファーマについて】
バイエルグループの一員であるバイエル・シエーリング・ファーマ社は、世界的なスペシャリティ医薬品企業です。画像診断薬、血栓止血領域、オンコロジー、プライマリーケア、専門治療領域、ウイメンズ ヘルスケアの6領域に注力し、研究開発及び事業活動を展開しています。バイエル・シエーリング・ファーマ社は、その革新的な製品で、世界のスペシャリティ医薬品市場における主導的ポジションを目指します。そして、新しいアイディアを活かして医療の進歩に貢献し、人々のクオリティ・オブ・ライフの向上に努めます。
www.bayerscheringpharma.de
[将来に関するステートメント]
本ニュースリリースは、バイエル・グループの経営幹部による現時点での想定と将来予測に基づき将来に関するステートメントを包含していますが、未知・既知の種々のリスク、不確実要因、ならびにその他の要因により、当社の実際の将来業績、財務状況、推移や業績と、本ニュースリリースの予測との間に乖離が生じる可能性があります。
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*1 定期補充療法 - 不慮の出血や関節障害の進展抑制のために定期的に継続して凝固因子製剤を輸注/注射する治療法
*2 出血時補充療法 - 出血時に止血のために凝固因子製剤を輸注/注射する治療法
*3 Manco-Johnson M, et al. Children with hemophilia. Seminars in Thrombosis and Hemostasis. 2003; vol. 29, number 6: 585-594.
*4 Nilsson IM, et al. Twenty-five years' experience of prophylactic treatment in severe haemophilia A and B. J Intern Med 1992; 232:25-32.
*5 Manco-Johnson M, et al. Results of secondary prophylaxis in children with severe hemophilia. Am J Hematol 1994; 47: 113-117.