NECなど、選別テストや実使用環境でLSI内の動作マージンを測定できる技術を開発
先端LSIの新しい設計・品質検査スキームを実現する
LSI内動作マージン観測技術を開発
NECおよびNECエレクトロニクスはこのたび、LSIチップの選別テスト段階や実使用環境でLSI内の動作マージンを測定できる技術を開発し、過剰なマージンを排した最適な設計と実使用環境での品質検査によって高信頼なLSI開発に貢献する新しいLSI設計・品質検査スキームを構築しました。
通常、LSIの設計時には、電源電圧の変動量やクロック信号のジッタ(注1)などのLSI内部の物理的な環境条件や、回路内の信号の動作マージンの予測を行い、十分高い品質のLSIが出来るように、適切な余裕(マージン)を持たせています。しかし、微細化と大規模化が進むと、現在の解析技術では内部信号の動作マージンを十分に把握できず、LSI設計時にマージンを大きめに取る必要が出るため、動作速度が制限されて、微細化のメリットを十分に発揮しにくくなります。また、微細化と大規模化が進むと、LSIが正しく設計・製造されたか否かのチップ選別テストが困難になるため、これまで同様の高品質なLSIを顧客に低コストで提供することができなくなるという課題がありました。
本開発は、このような課題を克服するもので、主な特長は以下の通りです。
(1)LSI内部のクロック信号に故意にジッタを入れることができるオンチップクロックジッタ生成回路を新規に開発。
(2)クロック信号にジッタを入れる技術と、電源電圧変動など、LSI内の品質に関わる物理量を測定する技術とを組み合わせることで、LSIの内部信号の動作マージンを高精度に観測可能とし、新たなLSI設計・品質検査スキームを開発。
これまで、主に半導体メーカなどのチップ選別テストの段階でLSIの動作マージンを観測する場合、設計時よりも高い発振周波数のクロック信号をLSI外部から入力することで動作マージンを求める方法が知られていました。しかし、この方法では、電源電圧や温度の変動量など、実際の動作環境とは異なる環境でLSIが動作し、LSIが処理するデータも実際のものとは異なることや、LSI内部に入力できるクロック信号の発振周波数に上限があること、高い精度でクロック信号を入力できないことなどの課題があり、動作マージンの高精度な観測が困難でした。一方、LSIを搭載した装置が動作している状態では、LSIのクロック信号の発振周波数を変えることが困難なため、動作マージンを観測することは一般的にはできませんでした。
本技術では、動作マージンを観測するにあたり、発振周期の長いクロック信号と発振周期の短いクロック信号をチップ内のクロックジッタ生成回路によって周期的に切り替えることができます。この結果、LSI間やLSI内の回路ブロック間の通信に影響を与えることなく(注2)クロック信号にジッタを入れることが可能になりました。これにより、チップ選別テストの段階や、LSIを搭載した装置が動作している状態でも動作マージンの観測が可能となり、LSI内の品質上の問題点を高い精度で知ることができます。さらに、本技術をこれまで研究開発を進めてきた電源電圧変動などのLSIの内部品質に関わる物理量の測定回路と組み合わせることで、LSIの動作を不安定にする要因、LSI内の問題点の場所、そのときのLSIの状態などを正確に対応づけて把握できるようになり、この結果を次世代のLSI設計や選別テストに反映する新しい設計・品質検査スキームが実現します。
NECおよびNECエレクトロニクスは、このたび開発した新たなLSI設計・品質検査スキームが、微細化によるLSIの高性能化・低コスト化を継続し、今後も高信頼なLSIを顧客に提供し続けるために必須のものと考え、積極的な研究開発活動を展開していきます。
なお、NECは今回の成果を、2月11日から15日まで、米国のカリフォルニア州サンフランシスコ市で開催される学会「国際固体回路会議(ISSCC2007)」で、13日に発表します。
以 上
(注1)信号の時間方向の揺れを指す。例えばクロック信号であれば、パルスの位置が所望の位置からずれた時、そのずれた量を指す。
(注2)この状態のクロック信号の発振周波数は、長い時間レンジの平均値で見ると変化がない。このため、クロック信号のジッタは、LSI間やLSI内の回路ブロック間の通信に影響を与えない。一方、1周期単位や2周期単位など短い時間レンジで見ると、発振周波数が変わっているように見える。したがって、動作マージンの観測が可能となる。
■本件に関するお客様からのお問い合わせ先
NEC 研究企画部 企画戦略グループ
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