2013'01.11.Fri
超臨界流体を用いたグラフェン量産化技術を開発
【ポイント】
・透明性と電気伝導度が高いグラフェンだが、量産化が課題になっていた
・「超臨界流体」の持つ剥離効果でグラフェンの単離に成功
・安価で良質なグラフェンの製造が可能に、応用展開に期待
JST研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)の一環として、東北大学 多元物質科学研究所の本間 格 教授、笘居(トマイ) 高明 助教らは、革新的炭素材料であるグラフェン(注1)の超臨界流体(注2)を用いた量産化技術を開発しました。
グラフェンは、炭素原子がハチの巣状に6角形のネットワークを形成したシートで、シリコンの100倍以上のキャリア移動度(注3)、熱的・化学的安定性などの特長を持つことから、次世代の電子材料をはじめとするさまざまな分野で活用が期待されています。特に近年では、電気自動車用の大型リチウム電池・キャパシター電極や軽量高強度部材への応用が考えられていますが、そのためにはキログラム単位の良質なグラフェン材料が必要とされます。しかし、従来のグラファイトを原料とした酸化的剥離法では、作製に1日以上がかかり、さらに官能基(注4)や欠陥が残ってしまうため、良質なグラフェンの量産化はできませんでした。
今回、有機溶媒の超臨界流体を使用しグラフェンの剥離処理を行うことにより、酸化処理をすることなく、短時間(1時間程度)で良質なグラフェンを製造する方法を開発しました。具体的には、剥離処理の回数を増やすほどグラフェンの収率を高めることができ、試験結果では400℃で48回の剥離処理を行った時に、収率80%以上でグラフェンを得ることができました。
この成果によって、安価で高速に良質なグラフェンの製造が可能となることから、従来の電子材料用途だけでなく、軽量高強度構造部材や電池材料、エレクトロニクス、電力・発電技術などさまざまなエネルギー技術への実用化が進むものと期待されます。
本研究は、東北大学と昭和電工株式会社が共同で行ったものです。今後、昭和電工株式会社では、本成果の事業化に向けてスケールアップによる量産性の検証などの研究開発を進めます。
本成果は、以下の事業・研究開発課題によって得られました。
研究成果展開事業(研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP))シーズ顕在化タイプ
研究課題名:「革新的炭素材料グラフェンの量産化プロセス開発」
研究者:本間 格(東北大学 多元物質科学研究所 教授)
企業:昭和電工株式会社
研究期間:平成23年10月~平成24年9月
JSTはこのプログラムのシーズ顕在化タイプで、大学などの基礎研究のうち産業界の視点(企業ニーズ)で見いだされたシーズの候補を対象に、シーズとしての実現可能性を産学共同で検証する挑戦的な研究開発を支援しています。
<研究の背景と経緯>
炭素の単原子層シートであるグラフェンは、シリコンの100倍以上のキャリア移動度、熱的・化学的安定性、巨大な比表面積といった特長を持つことから、次世代電子材料をはじめとするさまざまな分野での応用が期待されています。近年、電気自動車用の大型リチウム電池・キャパシター電極や軽量高強度部材における応用も考えられていますが、そのためにはキログラム単位の良質なグラフェン材料が必要とされます。しかし、従来のグラフェン大量生産手法である溶液法(酸化的剥離法)では、最終的なグラフェン作製には1日以上の長時間を要し、さらに酸化処理により導入された官能基や欠陥は後処理で完全に取り除くことができないため、良質なグラフェンの量産化はできませんでした。
開発チームは、この課題を解決するために、酸化処理を必要としない、超臨界流体を用いたグラフェン剥離プロセスに着目し、良質なグラフェンの大量作製可能な製造法の確立を目指して開発を進めました。
<研究の内容>
グラフェンは、層状構造を持つグラファイトの単層分であり、グラファイトから剥離させることで、単離します。
一方、超臨界流体は、気体と液体の中間状態であり、高密度かつ、高い浸透性を持つことから、超臨界流体中の溶媒分子が層間に侵入することで、グラファイトからグラフェンを剥離させる効果があることを、これまでに東北大の開発チームは明らかにしてきました。
開発チームは、この超臨界流体(超臨界エタノールなど)によるグラフェン剥離操作において、新たに開発した連続的原料処理が可能なフローリアクター(注5)(流通式反応器)(図1)により、超臨界流体処理時間を80秒程度まで短縮、従来のバッチリアクター(密閉式反応器)と比較して100倍以上の飛躍的なグラフェン生産能力の増大を達成しました。
また、積算加熱時間を同等とした場合、リアクター内で原料を長時間処理し続けるよりも、断続的な加熱急冷を繰り返した方が、剥離プロセスがより進行することを明らかにし、高い単原子層収率での量産化プロセスの実現可能性について検討しました。今回開発したフローリアクターでは、回収部において得られたサンプルを、リアクター内に再投入するループを形成することで、容易に繰り返し加熱急冷工程を設定することができます。その結果400℃、12回の繰り返し超臨界流体処理(積算処理時間16分)をグラファイト粉末に施すことで、従来10%程度に留まっていた単原子層グラフェンへの剥離効率を、30%以上にまで高めることができることが、ラマン分光(注6)による構造解析から確認されました。
加熱・冷却工程を繰り返すことで、単層収率が向上することを見いだしたことは、本研究開発の注目すべき成果であり、さらに加熱・冷却工程の繰り返し数を48回まで増やすことで単原子層グラフェン収率80%以上も可能であることが確認されています。
<今後の展開>
今回の成果によって、良質なグラフェンが安価でかつ高速に製造が可能となることから、従来の電子材料への応用用途だけでなく、軽量高強度構造部材、電池材料、エレクトロニクス、電力・発電技術などさまざまなエネルギー技術へのグラフェンの普及が期待できます。
今後、昭和電工株式会社では、本成果の事業化に向けてスケールアップによる量産性の検証などの研究開発を進めます。
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【ポイント】
・透明性と電気伝導度が高いグラフェンだが、量産化が課題になっていた
・「超臨界流体」の持つ剥離効果でグラフェンの単離に成功
・安価で良質なグラフェンの製造が可能に、応用展開に期待
JST研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)の一環として、東北大学 多元物質科学研究所の本間 格 教授、笘居(トマイ) 高明 助教らは、革新的炭素材料であるグラフェン(注1)の超臨界流体(注2)を用いた量産化技術を開発しました。
グラフェンは、炭素原子がハチの巣状に6角形のネットワークを形成したシートで、シリコンの100倍以上のキャリア移動度(注3)、熱的・化学的安定性などの特長を持つことから、次世代の電子材料をはじめとするさまざまな分野で活用が期待されています。特に近年では、電気自動車用の大型リチウム電池・キャパシター電極や軽量高強度部材への応用が考えられていますが、そのためにはキログラム単位の良質なグラフェン材料が必要とされます。しかし、従来のグラファイトを原料とした酸化的剥離法では、作製に1日以上がかかり、さらに官能基(注4)や欠陥が残ってしまうため、良質なグラフェンの量産化はできませんでした。
今回、有機溶媒の超臨界流体を使用しグラフェンの剥離処理を行うことにより、酸化処理をすることなく、短時間(1時間程度)で良質なグラフェンを製造する方法を開発しました。具体的には、剥離処理の回数を増やすほどグラフェンの収率を高めることができ、試験結果では400℃で48回の剥離処理を行った時に、収率80%以上でグラフェンを得ることができました。
この成果によって、安価で高速に良質なグラフェンの製造が可能となることから、従来の電子材料用途だけでなく、軽量高強度構造部材や電池材料、エレクトロニクス、電力・発電技術などさまざまなエネルギー技術への実用化が進むものと期待されます。
本研究は、東北大学と昭和電工株式会社が共同で行ったものです。今後、昭和電工株式会社では、本成果の事業化に向けてスケールアップによる量産性の検証などの研究開発を進めます。
本成果は、以下の事業・研究開発課題によって得られました。
研究成果展開事業(研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP))シーズ顕在化タイプ
研究課題名:「革新的炭素材料グラフェンの量産化プロセス開発」
研究者:本間 格(東北大学 多元物質科学研究所 教授)
企業:昭和電工株式会社
研究期間:平成23年10月~平成24年9月
JSTはこのプログラムのシーズ顕在化タイプで、大学などの基礎研究のうち産業界の視点(企業ニーズ)で見いだされたシーズの候補を対象に、シーズとしての実現可能性を産学共同で検証する挑戦的な研究開発を支援しています。
<研究の背景と経緯>
炭素の単原子層シートであるグラフェンは、シリコンの100倍以上のキャリア移動度、熱的・化学的安定性、巨大な比表面積といった特長を持つことから、次世代電子材料をはじめとするさまざまな分野での応用が期待されています。近年、電気自動車用の大型リチウム電池・キャパシター電極や軽量高強度部材における応用も考えられていますが、そのためにはキログラム単位の良質なグラフェン材料が必要とされます。しかし、従来のグラフェン大量生産手法である溶液法(酸化的剥離法)では、最終的なグラフェン作製には1日以上の長時間を要し、さらに酸化処理により導入された官能基や欠陥は後処理で完全に取り除くことができないため、良質なグラフェンの量産化はできませんでした。
開発チームは、この課題を解決するために、酸化処理を必要としない、超臨界流体を用いたグラフェン剥離プロセスに着目し、良質なグラフェンの大量作製可能な製造法の確立を目指して開発を進めました。
<研究の内容>
グラフェンは、層状構造を持つグラファイトの単層分であり、グラファイトから剥離させることで、単離します。
一方、超臨界流体は、気体と液体の中間状態であり、高密度かつ、高い浸透性を持つことから、超臨界流体中の溶媒分子が層間に侵入することで、グラファイトからグラフェンを剥離させる効果があることを、これまでに東北大の開発チームは明らかにしてきました。
開発チームは、この超臨界流体(超臨界エタノールなど)によるグラフェン剥離操作において、新たに開発した連続的原料処理が可能なフローリアクター(注5)(流通式反応器)(図1)により、超臨界流体処理時間を80秒程度まで短縮、従来のバッチリアクター(密閉式反応器)と比較して100倍以上の飛躍的なグラフェン生産能力の増大を達成しました。
また、積算加熱時間を同等とした場合、リアクター内で原料を長時間処理し続けるよりも、断続的な加熱急冷を繰り返した方が、剥離プロセスがより進行することを明らかにし、高い単原子層収率での量産化プロセスの実現可能性について検討しました。今回開発したフローリアクターでは、回収部において得られたサンプルを、リアクター内に再投入するループを形成することで、容易に繰り返し加熱急冷工程を設定することができます。その結果400℃、12回の繰り返し超臨界流体処理(積算処理時間16分)をグラファイト粉末に施すことで、従来10%程度に留まっていた単原子層グラフェンへの剥離効率を、30%以上にまで高めることができることが、ラマン分光(注6)による構造解析から確認されました。
加熱・冷却工程を繰り返すことで、単層収率が向上することを見いだしたことは、本研究開発の注目すべき成果であり、さらに加熱・冷却工程の繰り返し数を48回まで増やすことで単原子層グラフェン収率80%以上も可能であることが確認されています。
<今後の展開>
今回の成果によって、良質なグラフェンが安価でかつ高速に製造が可能となることから、従来の電子材料への応用用途だけでなく、軽量高強度構造部材、電池材料、エレクトロニクス、電力・発電技術などさまざまなエネルギー技術へのグラフェンの普及が期待できます。
今後、昭和電工株式会社では、本成果の事業化に向けてスケールアップによる量産性の検証などの研究開発を進めます。
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