エフェクター、「TAXIScan」を用いた新しい細胞動態解析技術の研究成果を発表
新しい細胞動態解析技術の研究成果に関する論文発表
(株)エフェクター細胞研究所(以下、ECI)がこれまでに開発、事業化を進めて参りましたTAXIScan(TM)テクノロジーは、細胞走化性を安定的な条件の下で詳細に観察することを可能とした、画期的な技術です。今回、ECIの研究グループは、TAXIScan(TM)で観察される細胞一つ一つの動きから、そのパターンを数値解析する全く新しい手法を開発し、ジャーナル・オブ・イムノロジカル・メソッズ(Journal of Immunological Methods)に論文が掲載されました。
本論文では、ヒトの血液を用いた実験によってこの解析手法が極めて有用であることが示されております。その概要を、図1を用いて説明致します。実験では、健康な人やアレルギー患者、ぜんそく患者などのボランティアより血液を採取し(図中[1])、そこから白血球中の好酸球と呼ばれる細胞を分離・回収しました([2])。得られた細胞が各種の走化性因子に対して示す走化性の様子を、細胞動態測定装置TAXIScan(TM)を用いて撮影し([3])、その結果を新規に開発したデータ解析技術を用いて数値化しました([4])。その結果、健常人およびアレルギー患者、ぜんそく患者の間において、統計学的に有意な、明確な走化性パターンの差異があることが明らかとなったのです。そのほかにも、今回の研究では走化性因子の種類によって走化性のパターンが異なることなども明らかとなりました。
ぜんそくなどの疾患では、これまでは重傷度を数値で客観的に表すバイオマーカーは存在せず、医師による問診などの定性的な方法によって診断されておりました。今回の成果結果は、このような疾患の診断に利用可能なバイオマーカーとしてTAXIScan(TM)テクノロジーによる走化性測定が非常に有望であることを示した世界初の知見になります。
今回の研究成果から、TAXIScan(TM)テクノロジーによる走化性測定はアレルギーやぜんそくなど各種疾患のメカニズム解明など基礎研究のほか、これら疾患の診断など医療現場においても活用が考えられます。また、疾患の程度を客観的に表す尺度となる優れたバイオマーカーは、薬剤開発の強力なツールとなることから、創薬への応用にも拍車がかかることが期待されます。
バイオマーカー研究をおこなっている研究グループの多くは、遺伝子や蛋白質の量的変化に着目しております。ECIは、細胞の質的変化に着目した独自の解析手法を用いており、新たなバイオマーカーの切り口として世界的に注目されております。
ECIではTAXIScan(TM)テクノロジーの適用範囲が徐々に広がることによって本技術の事業の発展に向けて、今後も研究・事業の両面において努力していく所存です。
< 今回発表した論文 >
(著者)Nao Nitta, Tomoko Tsuchiya, Akira Yamauchi,
Takuya Tamatani and Shiro Kanegasaki
(雑誌)Journal of Immunological Methods (2007) In Press
(題目)Quantitative analysis of eosinophil chemotaxis tracked using a novel optical device - TAXIScan(TM)
< 用語解説 >
◇走化性とは:
走化性(ケモタキシス)とは、細胞が特定の化学物質の濃度勾配の性質に従って動く性質のことをいい、走化性を起こさせる物質のことを走化性因子といいます。細胞表面の受容体には走化性因子が結合すると、細胞内にシグナル伝達され、細胞が形態変化を起こして遊走します。体内では走化性により、白血球の中でも強い攻撃力や処理能力を持つエフェクター細胞が目的の場所に移動したり、がん細胞が転移したりします。
◇バイオマーカーとは:
バイオマーカーとは、生体内の生物学的変化を定量的に把握するための指標(マーカー)となるものを指します。バイオマーカーは、ある特定の疾病や体の状態に相関して量的に変化するために、そのバイオマーカーの量を測定することで疾病の診断や効率的な治療法の確立等が可能となります。生体内には、数多くのバイオマーカーが存在します。ECIで、今後新しく発見されるバイオマーカーは、従来の検査項目よりも鋭敏かつ詳細に体の状態を反映すると期待されます。