水産総合研究センター、3歳魚でのクロマグロの産卵を確認
3歳のクロマグロが産卵開始!
~クロマグロ養殖種苗の大量生産に向けて~
水産総合研究センターと水産庁は、本年2月に「まぐろ研究所」を設立し、まぐろ関係の研究を重点化して進めています。
まぐろ研究所の構成機関でもある奄美栽培漁業センターではクロマグロの親魚養成および種苗生産技術の開発に取り組んでいます。これまで、飼育下では、5歳魚以上の親魚の産卵は確認されていましたが、今回、初めて3歳魚での産卵が確認され、安定採卵への足がかりを得ました。今後も産卵の確認を継続しながら、産卵した親魚数の確認を行い、成熟と産卵の関係を解明していきます。また、得られた受精卵を用いて種苗の飼育技術に関する研究開発を進めます。
また、本年度から農林水産技術会議の「先端技術を活用した農林水産研究高度化事業」に「マグロ類の人工種苗による新規養殖技術の開発」が採択され、研究を開始したところであり、本成果も加わり、研究の進展が大いに期待されます。
1.はじめに
世界的な健康志向の高まりによる魚食ブームを背景にまぐろ類の需要が急増し、世界の各海域で資源量の減少が指摘されています。一方、世界的にまぐろ類の養殖が増加していますが、日本でもクロマグロの養殖(現在約3500トン)が行われています。現在の日本での養殖は、その年に産まれた天然のマグロ幼魚(ヨコワ)を種苗としているため、種苗の一括大量入手が困難であり、漁獲数が年ごとに不安定です。そこで、人工種苗への期待が高まっています。
水産総合研究センターでは、奄美栽培漁業センターにおいて1994年からクロマグロの親魚養成および種苗生産技術の開発に取り組んで来ました。1997年から5歳魚以上の親魚(写真1)の産卵が確認されていますが、今回、3歳魚の産卵が初めて確認されました。6月6日以後ほぼ毎日の産卵が確認され、合計1000万粒以上の受精卵が得られました。
2.技術開発の概要
1)養成親魚の成長
天然のクロマグロの成長は、1歳魚で約3~4kg、5歳魚で約50kg、10歳魚では約150kg と推定されています。奄美栽培漁業センターでは1歳魚で約5~10kg、3歳魚で約100kg、 5歳魚で約150kg、10歳魚では約400kgに成長し、天然魚より良い成長を示します(図1)。現在、魚体重300~400kgの8歳親魚25尾を仕切り網(約14ha)で、50~120kgの3歳親魚 230尾を40m小割網で養成中です(写真2)。このように大型に成長するクロマグロの特性のため、小型の若齢魚からの採卵が可能になれば、成熟研究の進展と親魚養成の時間短縮が期待されます。
2)過去の産卵実績
1997年に初めて産卵が確認され、翌年には約2億粒、2002年には4億5千万粒以上の採卵に成功しました。しかし、多くの年は5000万粒以下で、2004年、2005年は1000万粒以下でした。このように、採卵量には年毎に大きな変動があり、クロマグロの大量産卵の難しさを表しています(図2)。
3)3歳魚の産卵
奄美栽培漁業センターでの過去の産卵は5歳魚以上しかなく、3歳魚での産卵は初めての事例です。
この親魚群は、過去の事例よりも数倍の尾数を育成していること等が、3歳魚での初めての産卵につながったのではないかと推定しています。
過去の知見から、奄美栽培漁業センターでのクロマグロの産卵は、初夏に水温が急激に上昇し、24℃を超えた時に始まると推定されています。本年度は春先の水温上昇が遅かったため、産卵への悪影響が懸念されていました(図3)。
しかし、6月になって海面水温が急激に上昇し24℃を超え産卵行動が見られ(写真3)、 6月6日から3歳親魚の小割網で受精卵が採取されました。6月10日からは採卵作業を開始し、すでに2004年、2005年の年間採卵数を超えました。
3.今後の展開
従来の経験から、今後もしばらく産卵が続くことが期待されます。採取卵については、 DNA解析による親子判別を行い、産卵した親魚の確認を行います。また、4月からこの3歳魚群のサンプリングを行っているので、卵巣の成熟過程の解析との照合を実施します。さらに、他海域で行われている養殖クロマグロの環境と産卵について共同研究機関と調査を実施し、奄美との比較検討を行います。
得られた受精卵については、仔稚魚の飼育技術の研究開発に取り組み(写真4)、クロマグロ種苗の大量生産技術の確立に向けて取り組んでいきます。
*写真、図は添付資料をご参照ください。