森林総合研究所、化石花粉で過去35万年間のシベリアタイガの変遷を解明
化石花粉で過去35万年間のシベリアタイガの変遷が明らかに
~地球温暖化の影響予測に貢献~
森林総合研究所では、シベリア内陸部・バイカル湖の湖底堆積物中に含まれる化石花粉により、過去35万年間の亜寒帯針葉樹林(タイガ)の歴史を明らかにしました。
シベリア内陸部は地球温暖化の影響をもっとも強く受ける地域とされる一方で、タイガはかつて大気中にあった炭酸ガスを炭素として大量にストックしていることから、タイガに対する温暖化の影響を評価は世界的な重要課題です。
今回の研究の結果、バイカル湖周辺ではマツ・トウヒ・カラマツ属を主とするタイガが温暖期に1万年間ほど覆い、その後10万年近くタイガの消失が続くというサイクルの繰り返しが見られています。このサイクルは地球規模での気候変動に対応したものであり、本研究はシベリアにおいて植生変化の周期性を詳細に示した世界で初めての報告です。
今回の成果は、今後の温暖化によるシベリア地域の植生変化を高精度で予測するための重要な成果として注目されるものです。
なお、この研究は、科学技術振興調整費(1995-1999)「バイカル湖の湖底泥を用いる長期環境変動に関する国際共同研究」により、ロシア、アメリカ、日本の国際共同研究として行われました。
【湖底の堆積物から過去を探る】
地球温暖化が植生分布に及ぼす影響を評価・予測することは今後の大きな課題の一つです。とりわけシベリア内陸部は温暖化の影響をもっとも強く受ける地域の一つであるため、大きな炭素ストックを持つシベリアタイガに対する温暖化の影響を評価することは世界的に注目されている重要な課題です。
現在地球上に見られる森林の分布は過去長期間の気候変動の結果を反映しており、過去においてもその時々の気候に対応した植生が分布していたと考えられます。したがって、気候変化に対する森林分布の変化を予測するためには、過去の気候と植生の関係を明らかにすることが有効であると考えられます。湖底の堆積物には過去の環境に関する記録が多く含まれているため、その分析から過去の気候や植生に関する情報を引き出すことができます。
【花粉分析によって明らかになったこと】
バイカル湖は約3000万年の歴史を持ち、流出河川がほとんどない準閉鎖系の湖であるため、湖底にはその間の堆積物が連続して堆積しています。また、バイカル湖の北東部には冷涼な気候を好むカラマツを主とする、南部には比較的温暖な気候を好むシベリアマツ、シベリアモミ等を主とするタイガが分布しており、バイカル湖がその境界となっています。このため、バイカル湖は過去長期間の気候変動と森林分布の関係を復元するための最適な場所といえます。そこで、バイカル湖で掘削した湖底堆積物試料を用いて(写真1)、その中に含まれる化石花粉(写真2)の種類と量を調べました(花粉分析)。
分析の結果、バイカル湖周辺では約10万年周期でマツ・トウヒ・カラマツ属を主とするタイガに覆われましたが、それは1万年ほどしか続かず、大半の時期はツンドラ植生やほとんど植生のない状態が広がっていました。さらに、この10万年周期の中にも、いくつかの寒冷期と温暖期があり、それに対応して森林の縮小と拡大を繰り返していました(図1)。このことは地球規模での気候と植生変化の周期性を示すものであり、本研究はシベリアにおいて植生変化の周期性を詳細に示した世界で初めての報告です。
【シベリア地域のこれからの予測に】
地球温暖化による森林の動態予測は、主に現在の気候条件と森林分布の関係から行われてきました。しかし、将来の森林分布を予測するには過去の気候と植生変化に関する知見を積み重ねることが重要です。今回の成果の中でも、現在の温暖期と比べてより温暖であったとされる約12万年前に、バイカル湖周辺では温暖・湿潤の環境を好むシベリアモミの分布が拡大したことがわかりました。こうした知見は、今後の温暖化によるシベリア地域の植生変化を高精度で予測するための重要な成果として注目されます。
【本成果の発表論文】
タイトル:Climate and vegetation changes around Lake Baikal during the last 350,000 years.
(バイカル湖周辺の過去35万年間の気候および植生変化)
著 者:志知幸治(東北支所)、河室公康(日本林業技術協会)、高原光(京都府立大学)、長谷義隆(熊本大学)、牧武 志(海洋研究開発機構地球深部探査センター)、三好教夫(岡山理科大学)
掲 載 誌:Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology(古地理・古気候・古生態、オランダ)
巻号(年):248巻3-4号(2007年)
※写真・図は関連資料をご参照下さい