東レ、複数の機能材料を混合させるナノスケール加工技術「ナノラメラ」を開発
新規ナノスケール加工技術“ナノラメラ”の開発について
-ナノレベルでのモルフォロジー制御により高度な機能複合が可能-
東レ(株)は、この度、複数の機能材料をナノスケールの3次元構造を形成させながら混合し、機能複合、機能補完を実現する新しいナノスケール加工技術“ナノラメラ”の開発に成功しました。様々な形態の3次元構造を実現することにより、適応できる機能複合、機能補完が広がります。これまで複合が難しかった機能の同時発現や、耐久性の大幅な向上、機能そのものの格段の高度化、並びに適用素材・用途の拡大などが可能になると考えられます。
“ナノラメラ”は、繊維仕上げ加工でのポリマーブレンドによる機能加工において、高機能発現のためにナノレベルでのモルフォロジー制御(注1)を行うことで、従来技術では達成できなかった高機能、高度な機能複合・機能補完を実現する技術です。 繊維仕上げでの機能加工は、通常水を溶媒とした薬剤を塗布、乾燥、耐久固着という工程で実施されますが、薬剤は、液体、半液体、固体という相変化の過程を経るため、その構造を任意に制御する事は非常に困難でした。
“ナノラメラ”では、複数の機能性ポリマーブレンドのブレンド系において、液体、半固体、固体という相変化の各過程で様々の条件(温度、湿度、濃度、圧力など)を制御する事で、使用する機能材料の性質を最大限に発揮させる3次元構造を制御(モルフォロジー制御)することに成功しています。この3次元構造は、ナノスケールという極めて小さなポリマードメイン(注2)を幾何学的に配置させることで、異なる機能を持った材料同士がお互いの機能発現を妨げることなく、また、ある機能を補完するような性質の材料を組み合わせることで、耐久性や機能の高度化を図ることができます。
繊維の機能加工においては、更なる高機能、高耐久性の追求、新機能の探求などが盛んに行われていますが、市場や消費者のニーズの多様化や高度化に対して、単一の機能材料が持つ単一の機能で対応するには限界があり、複数の機能材料による機能複合は近年益々重要な要素技術となっています。
これまでも、機能複合や高機能化のためにはポリマーブレンド(注3)、コンポジット(注4)といった手法で多成分化することが研究、実用化されてきました。ところが、相反する機能を持つほとんどの機能材料は分子レベルでは混ざらず(非相溶性)、分散層のサイズが数十μmから数mmの大きなドメインになってしまうため、期待する性能レベルが得られないことがほとんどでした。また、相溶性の機能材料同士の場合は、分子レベルで混合されてしまうためにお互いの持つ機能が相殺されてしまうという問題がありました。
今回の技術は、混ざりにくい材料や、お互いに溶け合ってしまう材料でも、均一且つそれぞれの機能が損なわれないナノレベルでのモルフォロジー制御により、材料混合・複合、固定化するもので、これによって、これらの問題を解決することが可能になりました。
東レは、本年10月からスタートした新しい中期経営課題“プロジェクト Innovation TORAY 2010(略称 IT-2010)”における主要課題「5つのInnovation」の中で、「技術のInnovation」を掲げ、それに対応するプロジェクトとして「8つのプロジェクト」の中から「先端材料事業拡大」および「研究・技術開発力革新」を推進することとしています。今回のようなナノスケール加工技術は、当社に数ある先端材料事業を支える要素技術の一つであり、今後も、当該分野における更なる研究・技術開発を推進することで、革新と創造による新たな飛躍に挑戦して参ります。
注1. モルフォロジー制御技術:
「モルフォロジー(morphology)【形態学】」とは、幾何学的形態および幾何学的性質を研究する結晶学の一分野である。今回の「モルフォロジー制御技術」は、機能材料(ポリマー)の持つ構造や、結晶化の状態を自在に制御する技術。
注2. ポリマードメイン:
溶媒中でポリマーが集合したかたまりの状態。
注3. ポリマーアロイ:
単独のポリマーでは得られない特性を発現させる目的で、複数のポリマーを混合した高分子多成分系の総称。
注4. コンポジット:
繊維強化プラスチックなど複数の性質の異なる素材を組み合わせ、それぞれ単独では得られない特性を得ようとするもの。
以上