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2025'02.13.Thu
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2007'07.06.Fri

理化学研究所、染色体上の遺伝子発現をコントロールする領域を発見

染色体上の遺伝子発現をコントロールする領域を発見
- 遺伝子治療など必要な遺伝子を安定的に発現させることが可能に -

◇ポイント◇
・ 近接する二つの遺伝子の発現を制御・抑制するために必要なDNA配列を同定
・ 染色体構造を機能領域ごとに区分する“バウンダリー”を哺乳類で初めて確認
・ 遺伝子工学への応用につながる遺伝子発現をブロックするDNA配列(領域)

 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、モデル動物であるマウスを用いて、染色体上にある目的とした場所だけの遺伝子を発現させ、他の部位で遺伝子が発現することを妨げる領域(DNA配列)を突き止めました。この領域は、染色体構造を機能領域(ユニット構造)ごとに区分する“バウンダリー”と呼ばれるものであり、哺乳動物では初めての発見です。理研脳科学総合研究センター(甘利俊一センター長)近藤研究ユニットの近藤隆ユニットリーダーらによる研究成果です。
 生命活動において、多くの遺伝子発現は、特定の時期に、特定の部位で行われています。遺伝子発現の調節が正確に行われることにより正常な生命活動が維持され、発現調節に支障が生じた場合には、形態の異常や病気等のさまざまな障害が生じます。
 特定の細胞で遺伝子が発現するメカニズムは、メッセンジャーRNA(mRNA)の転写の開始点を定めているプロモーターと呼ばれているDNA配列(領域)と、遺伝子の転写を調節している転写調節領域(エンハンサー)と呼ばれるDNA配列(領域)の組み合わせにより働きます。しかしながら遺伝子は、膨大なDNA塩基で構成された染色体上に存在しており、プロモーターとエンハンサーとの間が非常に離れている場合(数百キロベース〔kb〕)もあり、目的とした遺伝子だけを発現させる仕組み、つまり染色体構造と遺伝子調節機構との関係についてはほとんどわかっていません。
 研究チームは、染色体上で、大変近い位置(8kb)にありながら、異なる発現の調節を受けている二つの遺伝子に着目しました。マウスのES細胞を用いて、エンハンサーにより、目的とした遺伝子が発現すると、発現した部位が緑色に染色されるタンパク質を組み込み、組み込む断片の組み合わせによって、発現のパターンがどのように変わるか観察しました。その結果、二つの遺伝子の間にある特定のDNA配列(領域)が、一方の遺伝子だけを発現させ、他方の遺伝子の発現をブロックする機能を持っていることが明らかになりました。さらに、この機能は、生体外から遺伝子を導入した際、近接した遺伝子の発現を促進するエンハンサーとの干渉を防ぐことができ、安定的に目的とした遺伝子を発現させることができます。この成果は、遺伝子治療や創薬など安定的な物質生産への応用が期待されます。
 本研究成果は、米国の科学雑誌『PLoS ONE』(※1)(1月24日付け・オンライン)』に掲載されます。

1. 背 景
 生物を形作る多くの遺伝子は、その生物の生命活動の中で、特定の時期に、特定の部位で発現し、その機能を発揮します。遺伝子の発現では、プロモーターと転写を促進するDNA領域である転写調節領域(エンハンサー)との組み合わせが重要であることが知られています。これらのDNA領域は、染色体と呼ばれる非常にたくさんのDNA塩基で構成されている巨大分子上に存在しており、その染色体上には、無数のエンハンサー、あるいはプロモーターとして機能するDNA配列がひしめいています。また、近年の遺伝学の発展により、転写調節領域とプロモーターの距離が数百キロベース(kb)から1メガベース(Mb)に及んでいる場合もあることがわかってきました。遺伝子が正しい時期、あるいは部位特異的に発現するためには、染色体上において、プロモーターが正しい転写調節領域と相互作用する必要があります。ところがこれまでの研究では、染色体上における転写調節領域とプロモーターの相互作用の選択、転写調節領域が、その調節下に置くことができる範囲の解明など、染色体構造と遺伝子の発現の相関性についてはほとんどわかっていませんでした。

2. 研究手法
 研究チームでは、染色体上で近接した二つの遺伝子、“Evx2 (※2)”と“Hoxd13 (※3)”に注目して実験を行いました(図1A)。二つの遺伝子は、共にホメオボックス(※4)を持つ転写調節因子で、染色体上において8kbの距離にあります。これら二つの遺伝子は、肢芽(四肢ができるふくらみ)、外性器等の共通の発現領域を持ちながら、Evx2 は、発生段階において脳において発現し、Hoxd13 は脳では発現をしません(図1B)。つまり、両遺伝子の間には、脳での発現を促すエンハンサーが作用した際、その情報が、Hoxd13 に作用することをブロックするDNA配列(領域)があることを示唆しています(図1C)。
 このような領域の存在を確かめ、プロモーターとエンハンサーとの関係を探るため、研究チームでは、マウスのES細胞を用いて、標識となる遺伝子(リポーター遺伝子)を挿入し、発生過程において遺伝子が発現するパターン(表現系)を観察する実験を行いました。具体的には、Hoxd13 の下流に位置し、Hoxd13 と同様に、肢芽及び外性器等の共通の発現領域を持ちながら、発生段階において脳で発現しない遺伝子“Hoxd9 (※5)”に、遺伝子が発現すると緑色に染色されるタンパク質と、二つの遺伝子(Evx2 とHoxd13 )の間に存在するDNA配列を、特定の位置で分断して組み入れたDNA断片(外来DNA断片)を数パターンつくりました。この外来DNA断片を組み込んだリポーター遺伝子を、染色体上の特定の部位に挿入したマウスを、ES細胞からそれぞれ作製し、それらのマウスの遺伝子発現パターンを観察することにより、外来DNA断片ごとの遺伝子発現のパターン及びその機能がどのように変化するか観察しました(図2)。
 Hoxd9 は、これまでの研究チームによる研究から、Evx の3末端(3')側(Hoxd13 の反対側)に組み込むと、脳での発現を促すエンハンサーと相互作用を起こし、本来発現しない脳での発現が確かめられています。また、ES細胞を用いてマウスを作製するのは、外来DNA断片を目的の位置に挿入し、表現系を観察することが容易なためです。

3. 研究成果

(1) 遺伝子の発現をブロックする領域を発見
 まず初めにEvx2 とHoxd13 の間にあるDNA配列(領域)すべてを含んだリポーター遺伝子を、脳での発現を促すエンハンサーと相互作用を起こすことがわかっているEvx の3’側に導入し、遺伝子の発現パターンを調べました。すると、Hoxd9 は、脳で発現しませんでした。このことから、Evx2 とHoxd13 の間にあるDNA配列(領域)内に、脳での発現を促すエンハンサーが作用する際、その情報をブロックする領域があることが確かめられました(図2)。

(2) ブロックする領域に秘められた2つの機能
 次に、ES細胞を用いた同様の手法により、Evx2 とHoxd13 の間にあるDNA配列(領域)の半分を含む領域をリポーター遺伝子と組み合わせて、遺伝子の発現パターンを観察しました。すると、この領域の前半部分(5末端側)を含む2.5kbを組み合わせた場合には、Hoxd9 の脳での発現は起こりませんでした。さらに、この2.5kbのDNAは、肢芽、外性器での発現も阻害することから、すべてのエンハンサー(転写調節領域)とプロモーターの相互作用を阻害していることがわかりました。
 さらに、後半部分(3末端側)のDNA断片、2.5kbを共存させたところ、肢芽、外性器での発現が起こり、脳での発現だけが見られませんでした。このことから、後半の断片には、エンハンサーとの相互作用により、遺伝子の発現領域を部位特異的に調節する機能を持っていることもわかりました(図3)。

(3) 哺乳動物で初めて明らかになったバウンダリー
 染色体構造を機能ごとに区分するDNA領域(ユニット構造)は、“バウンダリー(境界)”と呼ばれ、ショウジョウバエなどでその存在が提唱されています。このバウンダリーにより染色体は、比較的小さなユニット構造に分割されると考えられています。バウンダリーの両端に存在するDNA領域は、構造的につながってはいても、バウンダリーの作用により独立したユニットを形成し、相互作用をしないと考えられています。
 今回の研究で明らかになった2.5kbのブロック領域のDNA配列は、エンハンサーとプロモーターの相互作用を阻害するのみならず、遺伝子発現抑制に関しても阻害する可能性があり、バウンダリーとしての定義を満たしていると考えられます。そこで、そのDNA断片を、蛍光タンパク質を発現させる遺伝子の両端につなぎ、動物細胞へ導入し、その発現の維持について観察しました。動物細胞において外来遺伝子が挿入された際に、挿入部位の周辺領域の影響による抑制をしばしば受けることは知られています。
 本実験において、今回発見したDNA配列を持たない外来遺伝子は、1年間の培養で、挿入した部位の周りからの遺伝子調節機構の影響を受け、ほとんど蛍光を失ってしまいました。しかしながら、当該DNA配列で挟み込んだ遺伝子の場合には、1年間の培養の後においても蛍光タンパク質の発現を良く維持しました(図4)。この結果は、このDNA断片がバウンダリーとして働き、導入遺伝子の発現を挿入位置の周辺領域の影響による抑制から守っているということを支持するものです。

4. 今後の期待
 今回、哺乳動物において初めて染色体をユニット構造に分割するバウンダリーと呼ばれるDNA配列を同定しました。今後、この領域に作用するタンパク質を同定することにより、染色体構造と遺伝子の発現調節に関する機構解明がさらに進展すると考えられます。
 また、外来遺伝子を動物や細胞に導入した際、挿入位置の周辺の環境による影響で、肝心の遺伝子が過剰発現する場合や、発現抑制が生じることが多く見られます。バウンダリーの活性は、染色体をユニットに分割するということであり、導入遺伝子を挿入環境から独立したユニットにしてしまう活性が期待されます。そのため、導入遺伝子にバウンダリーを組み合わせることで、挿入位置の周辺領域における発現調節機構に影響を受けることなく、導入された遺伝子のプロモーター本来の活性でのみ、発現の調節が行われるようになることが予測されます。これらの成果は、遺伝子治療、動物細胞を用いた創薬などの物質生産などへの応用が期待されます。


<補足説明>
※1 PLoS ONE
 PLoSシリーズは、アメリカのPublic Library of Science(PloS)が発行しているオンライン雑誌。Nature、Cellなどの編集に携わってきた編集者達が発起人となって2003年にまず PLoS Biologyの刊行が開始された。PLoS ONEは、科学分野・医学分野の査読付きオープンアクセス誌として創刊された。オンライン上で論文に関するフォーラムが開設され、掲載論文に関してウェブ上で討議することができ、その討議を通じて、より論文の質を高めることができる。

※2 Evx2 遺伝子
 ヒト及びマウスにおいて、2番染色体上に存在するホメオボックスを持つ転写調節因子の一つ。脳、脊髄、肢芽、外性器等に発現が見られる。

※3 Hoxd13 遺伝子
 動物において、体幹の前後軸における特異性を決定する因子である、Hox 遺伝子群の一つ。ヒト、及びマウスにおいて2番染色体上に存在するホメオボックスを持つ転写調節因子。体軸上の後末端での発現、肢芽、外性器で発現及びそれらの領域の形成に機能が見られる。

※4 ホメオボックス
 体のある一部の組織や器官が別の組織や器官になるという変化を起すホメオティック遺伝子に含まれている、180塩基対からなるDNA配列。DNA結合領域を形成していると考えられており、これを持つ遺伝子は転写調節因子であると考えられている。

※5 Hoxd9 遺伝子
 動物において、体幹の前後軸における特異性を決定する因子である、Hox 遺伝子群の一つ。ヒト、及びマウスにおいて2番染色体上に存在するホメオボックスを持つ転写調節因子。

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