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2025'02.13.Thu
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2007'07.06.Fri

理化学研究所、神経細胞間で情報を伝える新たな経路を発見

神経細胞間で情報を伝える新たな経路を発見
-神経のあいだを“糊付け”するタンパク質が信号の伝達に関与- 


◇ポイント◇ 

・神経細胞同士を構造的に接着しているタンパク質群に新機能 
・シナプスにおける情報伝達が通常とは逆方向に伝わっていることを証明 
・記憶・学習に関わるシナプス可塑性の分子メカニズムの解明に貢献することが期待 

 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、神経細胞のシナプスに特異的に存在するタンパク質の結合が、シナプスの双方向のコミュニケーションに重要な役割を果たしていることを明らかにしました。理研-MIT脳科学研究センター(利根川進センター長)※1興奮性シナプス可塑性研究チームの林康紀チームリーダー及び理研脳科学総合研究センター(甘利俊センター長)の神経構築技術開発チームの端川勉チームリーダー、二井健介基礎科学特別研究員らによる研究成果です。
 脳神経細胞間の情報伝達は、「シナプス」と呼ばれる接合部を介して行われています。シナプスには、神経細胞の活動状態の変化によって情報の伝達効率が変化する“シナプス可塑性”と呼ばれる現象があり、この可塑性が記憶や学習に重要な役割を持つと考えられています。シナプスは、信号を伝える「シナプス前細胞」と信号を受け取る「シナプス後細胞」に分けることができます。この二つの細胞の間は、シナプス間隙(かんげき)と呼ばれる隙間を隔てて独立しており、神経伝達物質のやり取りで情報を伝えています。この神経伝達物質によるシナプスでの信号の伝達は、今まで主に一方向、つまり前細胞から後細胞へ行われると考えられてきました。
 研究グループは、ラットを用いて、記憶・学習の中枢と考えられているる海馬で、シナプスの情報伝達の仕組みを、電気生理学的手法を用いて詳しく解析しました。その結果、シナプス前細胞及び後細胞を構造的に糊のようにつなぎ合わせているタンパク質が、情報伝達に関わっていることを突き止めました。さらに、情報を伝達する方向が、今まで考えられた方向ではなく、シナプス後細胞からシナプス前細胞へ伝わっていることが分かりました。この結果は、神経伝達物質による情報のやり取りだけでなく、両細胞をつなぐタンパク質も情報伝達に関与していることを示唆するものです。
 シナプス可塑性が、記憶・学習といった経験により、どのように変化し、それが維持されているのか探るためには、シナプス前細胞と後細胞とが、どのようにして協調を図っているかを明らかにすることが重要です。今回得られた結果は、世界で初めてその疑問に直接的に答える意義のある成果です。
 本研究成果は、米国の科学雑誌「Nature Neuroscience(1月22日付けオンライン)」に掲載されました。 


1.背 景 

 神経細胞は「シナプス」と呼ばれる細胞間の結合部を介して信号の伝達を行っています。神経細胞を伝わってきた電気信号は、神経細胞の末端、つまりシナプスに到達すると、神経伝達物質(グルタミン酸)を放出します。放出されたグルタミン酸は、もう一方の細胞にある受容体に作用し、その情報を次の細胞に伝えていきます。この神経伝達物質による情報のやり取りの場がシナプス間隙であり、間隙を挟みシナプスは、信号を伝える「シナプス前細胞」と信号を受け取る「シナプス後細胞」に分けることができます。シナプスで情報の伝達が起きるということは、1906年にノーベル賞を受賞したスペインのラモニ・カハールの研究により明らかにされており、それ以後、情報の伝達は、主として、シナプス前細胞から後細胞に伝わると考えられてきました(順行性伝達:図1)。
 シナプス前細胞の末端(シナプス前末端)と、シナプス後細胞の軸索にある棘突起(きょくとっき:スパイン)は、シナプス間隙を隔てて独立しています。シナプスが成熟すると、スパインとシナプス前末端の構造が協調して大きくなることが知られています。しかしながら、この協調性の分子メカニズムと、構造変化がシナプスにどのような機能変化を引き起こすのかは分かっていません。また、シナプス前細胞の特徴は、シナプス後細胞の性質によって決定されているという研究成果がありますが、どのような分子メカニズムで決定されているのかは明らかではありません。これらの事実を説明するためには、順行性伝達だけではなく逆向きの経路、つまりシナプス後細胞からシナプス前細胞の末端への経路(逆行性伝達)が存在することが必要ですが、具体的にどのような分子が寄与しているのかは明らかになっていませんでした。  


2.研究手法と成果 

 研究グループは、シナプス後細胞のスパインに特異的に存在するPSD-95※2というタンパク質に着目し、スパインの構造と機能維持にどのように関与しているかを探る研究を進めてきました。これまでにPSD-95をたくさん持つシナプス後細胞は、スパインが成熟しており、スパインにあるグルタミン酸受容体の応答性が増大していることが分かっています。しかしながら、スパインの成熟によってシナプス前末端の機能が変化するのかどうかは、確かめられてはいませんでした。
 そこで、神経細胞に電極を差し、情報伝達がどのように行われているかを確かめる電気生理学的な手法により、PSD-95が情報伝達にどのように関与しているかを調べました。具体的には、ラットの培養海馬スライスに対して、遺伝子銃によりPSD-95を海馬CA1領域神経細胞へ強制発現させ、ホールセル技術を用い、グルタミン酸受容体を介した興奮性シナプス後電流応答を記録しました。その結果、PSD-95によりシナプス後細胞のスパインが成熟することにより、シナプス前末端から伝達物質がより放出されやすくなることが明らかになりました。これはシナプス後細胞に存在するPSD-95が、シナプス後細胞を介して情報伝達を増大させるだけではなく、逆行的にシナプス前末端から放出される神経伝達物質の放出のされやすさ(放出確率)を変えることにより、シナプス伝達を強化していることを示唆しています。
 PSD-95は、細胞内に存在することから、直接的にシナプス前末端の機能を調節していることは考えにくいため、細胞内でPSD-95に結合し、かつ細胞外で作用する部位(ドメイン)を持つニューロリギン(Neuroligin)※3というタンパク質に注目しました。ニューロリギンは、細胞同士を“糊付け”していると考えられているタンパク質です。シナプス後細胞のニューロリギンを発現調節したところ、PSD-95同様に放出確率が変化しました。PSD-95強制発現下でニューロリギンの機能を阻害するとPSD-95の効果は無くなり、ニューロリギン強制発現下でPSD-95の機能を阻害するとニューロリギンの効果は無くなったことから、PSD-95とニューロリギンの効果は、互いのタンパク質が相互に作用することが必要であることがわかりました。
 さらにニューロリギンは、細胞外領域を介してシナプス前末端に存在するニューレキシン(Neurexin)※4と結合することがすでに明らかとなっており、また、ニューレキシンは、シナプス前細胞の末端内の伝達物質放出機構に関与しているさまざまなタンパク質と結合することがわかっています。そこでニューレキシンの伝達物質放出機構に対する寄与を解析するため、ニューレキシンの機能阻害体をシナプス前細胞へ強制発現させたところ、神経伝達物質の放出確率は減少しました。
 以上の結果よりシナプス後部に存在するPSD-95が、ニューロリギンを介してシナプス前細胞の末端のニューレキシンと結合し、シナプス前細胞に対して伝達物質放出を制御している、つまり“グルタミン酸をたくさん出しなさい”という信号を、通常の情報の伝達経路とは逆向きに出していることが明らかとなりました(図2)。  


3.今後の期待 
 
 本研究成果は、19世紀のシナプスの発見以来、信号が伝達する方向は、一方向であると思われていた常識を覆すとともに、シナプス間隙では両方向に信号が伝わるということを具体的に明らかにした点で、意義深いものです。また、単に“糊付け”していると思われていた分子が,信号の伝達に積極的に関わっていることがわかりました。
 これらの知見は、神経細胞間の情報は、シナプス間隙を隔てて相互にやり取りされることにより情報伝達が維持されることを示しており、記憶と学習の機構を、分子レベルで解明するために重要です。また将来的に、ニューロリギン以外の接着タンパク質が、このような役割を持っていないか研究することで、さらにシナプスの双方向のコミュニケーションの機能が明らかになることが期待されます。  


<補足説明>

※1 RIKEN-MIT脳科学研究センター 
 理化学研究所とマサチューセッツ工科大学(MIT)との連携研究の拠点。1998年に設立された。同センターの研究目的は、小脳、大脳及び海馬における記憶・学習のメカニズムを解明することにあり、それぞれの部位の機能が統合した脳全体における記憶・学習システムを明らかにすることを目指している。現在、6チームが活動中。 
 
※2 PSD-95 
 Postsynaptic Density 95kdの略、棘突起内の受容体が密に存在するシナプス後肥厚に局在するMAGUK (membrane associated guanylate kinase) タンパク質のひとつで、シナプスの構造維持に寄与しているタンパク質。3つの特徴的なドメイン構造を持ち(合計5つ)そのドメインを介して様々なタンパク質と結合する。 
 
※3 ニューロリギン(Neuroligin) 
 一回の膜貫通ドメインを持つタンパク質であり細胞内のドメインを介してPSD-95と、細胞外のドメインを介してニューレキシンと結合する。シナプスの形成に重要なタンパクであることが報告されていたが、シナプスの機能に関与しているかは明らかとなってはいなかった。 
 
※4 ニューレキシン(Neurexin) 
 シナプス前末端に存在する一回の膜貫通ドメインを持つタンパク質であり、細胞外のドメインを介してニューロリギンと結合し、細胞内のドメインを介して神経伝達物質の放出にかかわるさまざまなタンパク質と結合する。 


 ※以下は、添付資料を参照

図1 シナプスの形態 

 ピンク色で示したものがシナプス前細胞の末端(シナプス前末端)、水色で示したものがシナプス後細胞の棘突起(スパイン)。両者には、シナプス間隙と呼ばれる隙間があり、神経伝達物質を介して情報をやり取りしている。 

 
図2 PSD-95と二つのタンパク質を介した逆行性伝達 

 今回の研究によって示唆されるシナプス伝達物質放出制御機構。シナプス後細胞の棘突起(スパイン)に含まれるPSD-95及びシナプス後細胞と前細胞とを糊のようにつなぎ合わせる二つのタンパク質(ニューロリギンとニューレキシン)を介して、シナプス後細胞から発せられる情報をシナプス前細胞が受け取り、グルタミン酸の放出確率が増大する。 

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