東北大学、格子歪のないGaN自立基板の作製に成功
格子歪の無いGaN自立基板の作製に成功
東北大学学際科学国際高等研究センターの八百隆文教授と金属材料研究所のCHO Meoungwhan(チョ・ミョンファン)助教授の研究グループは、これまでに金属バッファー層を利用したケミカル・リフト・オフ技術の開発や縦型高輝度LED作製プロセス開発などGaN(窒化ガリウム)デバイスの基盤技術を開発してきたが、最近、サファイヤ基板上にZnOバッファー層を堆積し、次いでその上にGaN厚膜を成長することによって、残留歪の無いGaN自立基板の作製に成功した。これによって、デバイスの信頼性低下の一因である残留歪の問題が解決され、高輝度白色発光ダイオード(LED)や青色レーザダイオードの性能と信頼性が大幅に向上するものと期待される。
GaNによって高輝度の青色LED、緑色LED、白色LED、青色レーザダイオード、緑色のレーザダイオードだけでなく、さらに、高周波高速トランジスタや高電力トランジスターなども実現されている。これらの技術革新によって、高精細フラットパネルディスプレイ、高輝度屋外ディスプレイ、大容量記憶装置、大電力省エネルギー型の電力デバイス等々が実現し、実用化されつつある。これらの技術を支えつつあるのが、GaN基板である。実用レベルの青色レーザダイオードを作製するためにはGaN基板が必要であり、ハイブリッド自動車のインバーター素子を作製するためにもGaN基板が必要であり、さらには蛍光灯に取って代わるであろう高輝度の白色LEDを作製するためにもGaN基板が必要になるであろうと言われている。
GaN基板における問題は、成長の下地基板として用いるサファイヤ基板との格子不整合や熱膨張係数の不整合などに起因する転位や残留歪が問題となっている。これらの問題のために、プロセスコストが増加するとともに、歩留まりも低下するためにコストが最終的に問題となる。
今回開発したGaN自立基板の作製技術は、(1)残留歪の殆ど無いGaN基板の作製が可能、(2)GaN厚膜成長終了時点ですでにサファイヤ基板から剥離されている、(3)GaN基板作製工程が簡単化されコスト低減が可能、(4)AlN基板、AlGaN基板、InGaN基板、InN基板などの窒化物半導体基板の作製技術への応用が可能、などの特長を持つ。
今回開発したGaN作製技術の概要を図1に示す。作製プロセスは以下のようである。(1)サファイヤ基板上にZnO層、次いでGaN層を分子線エピタキシ法で積層する。(2)HVPE装置で900oC程度で低温GaN厚膜を成長する。ZnO膜はこの過程で完全にエッチングされる。(3)引き続いて1050oCで高温GaN厚膜を成長する。この技術のポイントは(2)の低温GaN層を成長する過程でZnOを完全にエッチングする点であり、これによって、その上に成長した高温成長した高品質GaN厚膜中の残留歪は殆どゼロとなるとともに、高温GaN成長時点でサファイヤ基板からGaN膜が剥がれる“その場リフトオフ”プロセスが初めて可能になった。図2にX線回折カーブを(0002)、(0004)、(0006)回折について示す。X線の進入長がそれぞれ、10ミクロン、20ミクロン、30ミクロンであることから、表面付近から30ミクロンまでのc軸方向の格子定数は一定であり、その値は0.5185nmとなる。同様にa軸方向の格子定数を測定すると、0.3189nmである。これらの格子定数値はバルクGaNの格子定数と等しい。さらにフォトルミネッセンス測定における自由励起子の発光エネルギーもバルクと同じである。これらの実験結果から、作製したGaN基板内の残留歪は殆どゼロであることが結論される。
図3はGaN基板断面からの顕微フォトルミネッセンス・スペクトルである。顕微フォトルミネッセンスの空間分解能は1ミクロン程度である。試料断面の位置をずらしながら測定している。フォトルミネッセンス測定温度は、77Kである。高温GaN層からのフォトルミネッセンスは自由励起子発光が支配的であり、発光エネルギーの場所変化は無いことから、高温GaN層の内部の残留歪もゼロと言うことがわかる。
今回はc面サファイヤ基板を用いて、格子歪フリーのc面GaN自立基板の作製技術を開発したが、本技術は(1)c面以外にも、M面やA面などの非極性面GaNの作製にも応用できること、(2)GaN以外にもAlN、AlGaN、InN、InGaN基板作製にも応用できることを強調しておきたい。
この結果はApplied Physics Letters誌 2月5日号に発表される予定になっている。
*資料:図1~図3
(※ 関連資料を参照してください。)