NICT、マイクロ波電界分布の瞬時撮影技術を開発
マイクロ波電界分布の瞬時撮影技術を開発
-無線機器電子回路の診断に威力-
独立行政法人情報通信研究機構(以下NICT。理事長:長尾真)は、マイクロ波電界(*1)分布を瞬間的にイメージとして映し出す装置の新規開発に成功しました。本装置では、高周波電界を光信号に変換して読み取り、10,000画素(100×100画素)のイメージとして表示します。この言わば「目に見えない電気信号を光で映し出す」新しい技術を用いると、マイクロ波回路の信号分布を瞬時にイメージとして表示することができます。従来は理論や計算に頼っていたマイクロ波回路の動作状態の把握や不良箇所の診断を、視覚的・直観的に素早く行うことができるようになると考えられます。本技術に基づく高周波電子回路の検査・診断技術の開発は、将来のユビキタス社会を支える高度な無線機器技術の進展に貢献し得るものと期待されます。
<背景>
ユビキタス社会の実現に向けて、携帯電話・無線LAN・RFタグ等の無線機器の利活用や新規開発を、より効率的により迅速に行うことが求められています。この目的のためには、機器からの電波の漏洩や無線機器内の誤動作を防止する有効な方策が必要とされており、中でも、それらの原因を速やかに特定できる検査・診断技術が重要視されています。無線機器内で用いられるマイクロ波回路に対して、そこからしみ出す電磁界の分布をイメージ化し、回路の動作状態を視覚的に確認する手法が先述の目的に対して有望と考えられており、その研究開発の推進が期待されています。
電界により屈折率が変化する“電気光学結晶”(*2)を用いてマイクロ波回路の電界情報を光に写し、それを読み取る、このような電気光学的手法には被測定電磁界が乱されにくいという特色があり、NICT仙台リサーチセンターをはじめとする内外の研究機関で開発が進められています。
しかし、こうした手法においては従来より「測定は一度に一箇所」が基本とされ、電界情報をイメージ化するには測定素子の走査が必要となり、回路全体のイメージを得るためには数十秒から数時間という非常に長い走査時間を必要とし、測定に時間を要していました。
<今回の成果>
NICTは、今回、10,000点(100×100画素)の電界分布を1秒以下の時間で瞬時に撮影する技術を開発しました。「測定点は一度に一箇所」という固定概念を打破し、多数点での測定を並列に進める方式を実現したことによるものです。このためには、次の個別技術を開発し統合することが必要でした。
(1)電磁界の情報を光で映し出しそれを並列に読み取るための光学系の開発
(2)マイクロ波帯の信号を低周波数帯の信号へと変換する技術の開発
(3)読み取った映像から電磁界分布を抽出する技術の開発
(4)高感度化技術の開発
上述のように、本開発の要点は並列測定の実現にあります。これは光が本来有する超並列という特性を利用することで解決しました。実際、従来技術と比較すると並列度は1万倍となっています。これは10,000点の測定に必要な時間が10,000秒(3時間弱)からわずか1秒に大幅短縮されたことに相当します。イメージを得る時間が1秒であれば、イメージ化は文字通り「撮影」する操作と表現でき、実際に、装置の実用性も格段に向上します。
「電界信号のスチルカメラ撮影」とも言える本技術については、マイクロ波回路の不良箇所診断や電波漏洩検査への応用が第一に期待されます。技術の波及先はそれらに限られることなく、例えば、物体の組成や内容物のイメージングを電磁波によって行う技術へ展開される可能性も想定されます。
<今後>
今後は実用性を高め、技術移転を視野に入れた研究開発を進める予定です。
<研究内容に関する問合せ先>
新世代ネットワーク研究センター
光波量子・ミリ波ICTグループ
Tel: 042-327-5398
Fax: 042-327-5328
E-mail: sasagawa@nict.go.jp
【用語解説】
(*1)マイクロ波:
一般に、周波数300MHzから30GHzの電磁波をマイクロ波と呼ぶ。携帯電話や無線LAN 等の無線通信機器に幅広く利用されている。
電界:
電波や電気信号の一成分。マイクロ波回路では、回路面上の近傍にわずかにしみ出している。
(*2)電気光学結晶:加えられた電界に応じて光の屈折率が変化する結晶。
(※ 補足資料あり)