東北大学、植物の根が水に向かって伸びるための遺伝子を発見
東北大学大学院生命科学研究科
植物が乾燥地で生きる知恵
―根が水に向かって伸びるための遺伝子を発見―
[概要]
東北大学大学院生命科学研究科の高橋秀幸教授・宮沢豊助手・小林啓恵研究員(産学官連携研究員)の研究グループは、植物の根が水の多い方向に伸びる(水分屈性という)ために必要な遺伝子を発見し、それが陸上植物によって進化の過程で乾燥を回避するために獲得された可能性を見出した。その成果が米科学アカデミー紀要(PNAS)電子版に発表される。
水はすべての生命に不可欠である。植物は、約4億5千万年前に水中から陸地に進出したと考えられているが、陸地の乾燥環境下で生活するために根を発達させて土壌中から水を取り込み、それを植物体全体に運んで生きるように進化した。これまでに高橋教授らは、根が水を上手く取り込むために水分勾配を感知して水の多い方向に伸長する、水分屈性といわれる能力をもっていることを証明していた。動物と違って自ら生育場所を移動することのできない植物にとって、このような能力は陸地で乾燥を回避して生きるために重要である。しかし、根が水分屈性を発現させる仕組みについては未解明のままであった。今回、同研究グループは、モデル生物であるシロイヌナズナ(アブラナ科植物)の根で水分屈性を発現させる実験系を開発し、それを用いて水分屈性を完全に失った突然変異体を単離することに成功し、その突然変異の原因遺伝子をつきとめた。このMIZU-KUSSEI1(MIZ1)と名付けられた遺伝子が働かないと、根は水分勾配の感知に失敗し、水の多い方向に伸びることができなくなる。MIZ1遺伝子は、シロイヌナズナだけでなく、イネやコケなどの陸上植物に広く存在するが、動物や藻類にはみられず、陸上植物の乾燥回避のために進化の過程で獲得された可能性が強い。
根が水の多い方向に伸びるために働く遺伝子を明らかにしたのははじめてで、本研究成果は、乾燥条件下での生存を可能にした陸上植物の進化と戦略を理解する糸口になると期待される。また、環境・食糧問題と関連し、地球規模での水資源の有効利用が深刻になっている。植物による水利用効率を向上させて生産力をあげることは、乾燥地での作物生産や砂漠化防止のうえで極めて重要である。本研究成果は、そのための新たな技術開発につながる植物の機能と制御分子を明らかにした点でも意義深い。
(参考)
本研究は、(財)日本宇宙フォーラム、(独)農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センター基礎研究推進事業、(財)武田科学振興財団、文部科学省・日本学術振興会科学研究費の研究助成を受けて行われたものである。