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2025'02.03.Mon
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2007'08.16.Thu

理化学研究所、水素の超高速移動メカニズムを分子レベルで解明

1兆分の1秒で進む水素の超高速移動メカニズムを分子レベルで解明

-10年来の世界的論争ついに決着、二量体から互変異性体が直接的に生成と結論-  


◇ポイント◇ 
 ●二重水素移動とよぶ光化学反応ですばやい水素の動きだけをはじめてキャッチ 
 ●分子の発する微弱光変化を10兆分の1秒の精度で測定し、反応機構を詳細に解明 
 ●紫外線照射によるDNAの複製ミスなどの影響を分子レベルで理解する手がかり 

 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、「二重水素移動」と呼ばれる重要な光化学反応における2つの水素の動きを、最先端の分光計測法を用いて分子レベルで解明しました。これは、理研中央研究所(茅幸二所長)田原分子分光研究室の竹内佐年先任研究員と田原太平主任研究員による成果です。
 一対の分子が、2つの水素結合により結びついた形の塩基対に紫外光を照射すると、高いエネルギーをもつ電子励起状態となって、水素結合部位の酸塩基特性※1が著しく変化します。この結果、結合に関与する2つの水素が共に結合軸に沿って移動し、塩基対は光化学反応の一つである「二重水素移動」反応を起こし、互変異性体※2と呼ばれる別の化学種に変化します。しかし、質量の小さい水素が移動するため、その反応時間が極端に短く、2つの水素の動きに相関があるのかなど、詳しい反応機構はよく分かっていませんでした。
 とくに、研究グループが調べた7-アザインドール二量体※3では、2つの水素が1つずつ順番に移動するのか、あるいは2つが同時協奏的※4に移動するのかという点をめぐって、ノーベル賞受賞学者を巻き込んだ10年来の激しい世界的論争がくり広げられてきました。今回、研究グループは、10兆分の1秒をも区別できる「フェムト秒蛍光分光法」と呼ぶ手法を用いて、互変異性体の生成前後に分子が発する微弱な光の時間変化を観測しました。そして、二量体の消滅速度と互変異性体の生成速度が一致する、決定的な実験結果を得ました。つまり、2つの水素は、約1兆分の1秒の間に同時協奏的に跳び移っていることが判明しました。このことは、「7-アザインドール二量体で二重水素移動が起こる」と提唱されてから約40年後に、ようやくその反応機構の詳細を解明した、画期的な基礎研究成果となります。
 また、この二量体は、DNA塩基対のモデルとしても注目されています。そのため、本研究成果は、紫外線を浴びたDNAの振る舞い(損傷の可能性)の、分子レベルでの理解にもつながると期待されます。
 本研究成果は、米国科学アカデミー紀要『Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America:PNAS』オンライン版(3月19日の週)に掲載されます。

1.背景 
 生命の設計図として知られるDNAは、塩基どうしが向き合った形で複数の水素結合を介して結びついた塩基対から構成されています。そしてその物理化学的特性の解明は、生命の営みを解く重要課題として、古くから認識されてきました。本研究で取り上げた7-アザインドール二量体は、2つの水素結合をもつ塩基対で、多重水素結合系の最も簡単なモデルとして、約40年間にわたり精力的に研究されてきた系です。
 この二量体に紫外光(波長313ナノメートル)を照射すると、二量体全体に広がるパイ電子※5が、高いエネルギーをもつ励起状態となって、水素結合部位の酸塩基特性が著しく変化します。その結果、水素結合に関与する水素をはさむ形で、水素を放出したい部位と引き寄せたい部位が向かい合うことになります。これを駆動力として、2つの水素がともに結合軸に沿ってすばやく移動し、二量体は別の化学種である互変異性体(7H-ピロロピリジン)へと変わります。この反応は「二重水素移動」と呼ばれ、代表的な光化学反応としてよく知られています(図1)。
 しかし、この基本反応に関してすら、水素の移動速度や動き方、特に2つの水素の動きに関連性があるのかないのか、という興味深い問題は、不明な点が多く残されていました。その大きな原因は、質量の小さい水素の移動が、極めて短い時間内に終ってしまい、観測できないことでした。そのため、世界中のいくつかの研究グループが、10兆分の1秒という微細な時間差を見分けることのできる「フェムト秒時間分解分光法」と呼ぶ最先端の手法を駆使し、水素の動きを見極めようとしのぎをけずってきました。ノーベル化学賞受賞学者であるアーメド・H・ズベイル博士(米国カルフォル二ア工科大学)らのグループおよび欧米の数グループは、2つの水素が1つずつ順番に移動する「段階的反応機構」を、早い時期から主張してきました。一方、2つの水素が同時に移動するという「協奏的反応機構」も、この反応の発見者であるマイケル・カシャ博士(米国フロリダ州立大学)のグループや当研究グループから提出されていました。そしてこの両者の間で、世界的な規模の激しい論争が10年あまりにわたって繰り広げられてきたのです。しかし、これまでの実験データはすべて、水素の動きだけをとらえた信号とは言えないため、結論に至らず、議論は平行線をたどっていました。

2.研究手法と成果 
 今回、研究グループは、フェムト秒蛍光アップコンバージョン法※6という最先端の計測法を使用しました。この方法では、電子励起状態にある分子が発する微弱な光(蛍光)を、和周波光発生装置※7という光による一種のスイッチに通します。このスイッチは、時間幅がわずか10兆分の1秒しかないレーザー光を使って開閉します。そのため、蛍光強度の時間変化を時々刻々と(10兆分の1秒単位で)追跡することができます。
 研究グループは、この手法により、溶液の中の励起状態の7-アザインドール二量体が発する信号を、選択的に観測しました。さらに、二量体に照射する紫外線の波長を、数ナノメートルずつ変えながら測定するという工夫を行い、水素の動きだけを反映した信号を検出することに、世界ではじめて成功しました。この結果、二量体が消滅する速度と互変異性体が生成する速度がともに1兆分の1秒であり、両者が一致することを示す決定的な実験データを得ました(図2)。この実験データは、水素が1つだけ動いた中間状態が存在せず、二量体から互変異性体が直接的に生成することを意味し、反応が協奏的機構により進むことを決定づけました(図3)。
 最近になって、気相中での反応についても、九州大学の関谷博教授、迫田憲治助手らのグループが、高いエネルギー分解能をもつ精密な分光実験を行いました。そして、溶液中と同じく、気相中でも協奏的機構で反応が進むことを示唆する実験データを得ています。このこともふまえると、研究グループの今回の成果は、精密な実験や高い技術力、緻密な考察に根ざした日本の科学の底力と、世界における高いリーダーシップを、象徴的に示す画期的なものだといえます。  

3.今後の期待 
 DNAは、塩基対が連なった二重鎖構造をしていますが、決して安定不変な化学物質ではなく、細胞内の環境や外界からの刺激によって、絶えず損傷を受けています。特に、紫外線を浴びた場合の損傷現象としては、連続して配列したチミン(塩基の一つ)どうしがシクロブタン環を形成し、チミン二量体を生成することがよく知られています。この紫外線照射によるDNA損傷をはじめ、光によって引き起こされる反応は、われわれの生命活動にも大きな影響を及ぼす可能性があり、そのメカニズムの解明は大変重要です。また、最近、DNA塩基対において、反応性の高い電子励起状態は、短い時間で安定な基底状態に戻り、DNAの複製ミスを回避する仕組みであることなどもだんだんと分かってきました。
 今回の研究で取り上げた7-アザインドール二量体は、DNAの構成要素であるアデニン・チミン対やグアニン・シトシン対との類似性が高い塩基対です。そして、互変異性体のような短寿命過渡種は、通常の生化学的な手法では検出できないため、その観測には今回の研究で用いられたような極限的な分子計測が必要です。この意味で、今回の研究成果は、紫外線照射によって引き起こされるDNA複製ミスのメカニズムなど、光による生命機構への影響を、分子レベルでさらに深く理解するための1つの手がかりと可能性を与えたといえます。  

<補足説明>
※1 酸塩基特性 
 酸と塩基にはさまざまな定義がある。ここでいう酸は、水素イオンを相手に与えるような分子またはイオン(水素イオンの供与体)を意味し、逆に、塩基は相手から水素イオンを受けとるような分子またはイオン(水素イオンの受容体)を意味する。酸塩基特性は、分子や分子内の特定部位が水素イオンを与えたり受け取ったりする能力をさす。 
 
※2 互変異性体 
 異性体とは、同一分子式で異なる構造をもつものを指す。互変異性体とは、ある化合物が2種の異性体として存在し、それらが容易に変換しあう際、それぞれの異性体を互変異性体という。この変換の多くは、水素原子の結合位置が変わることで起こる。 
 
※3 7-アザインドール二量体 
 二量体とは、2個の分子が重合して生ずる物質をいう。また、カルボン酸などで見られるように、水素結合そのほかの分子間力によって2分子が簡単な会合をしている場合にも用いられる。7-アザインドール二量体の場合は後者に相当する。同様に、3個の分子が重合または会合すれば三量体が生ずる。
 今回実験に用いた7-アザインドール二量体は、分子式がC7H6N2で表される7-アザインドールどうしが互いに向き合う形で会合した構造をもつ。ピロール環のNH部位と相手分子のピリジン環のN部位との間で2つの水素結合が形成されることにより、7-アザインドール2分子が結びついている。  
 
※4 協奏的 
 協奏反応とは、2個あるいはそれ以上の反応点で、反応が互いに電子的に深い関わり合いをもちながら併行して進行する形の反応をいう。反応の途中で、反応中間体を生じることなく、1段階で進むのが特徴である。多段階の反応は、それに含まれる個々の段階が協奏反応であっても、全反応としては協奏的とはならない。 
 
※5 パイ(π)電子 
 分子面に対して対称な軌道に属する電子をσ電子、反対称な軌道に属する電子をπ電子という。とくに、単結合と二重結合が交互に並んだ共役系のπ電子は結合に沿って大きく移動できるため、分子全体に広がった電子分布をもち、特徴的な物理化学的性質を示す 
 
※6 フェムト秒蛍光アップコンバージョン法 
 励起状態の分子が発する微弱光(蛍光)の強度の時間変化を、10兆分の1秒のスケールで観測する最先端の分光計測法をさす。和周波発生装置(※7参照)を用いて、試料の蛍光と時間幅10兆分の1秒のレーザー光との間の和周波光を発生させ、微細な時間内の蛍光強度を測定する。このとき、蛍光の周波数が、それより周波数の高い和周波光に変換するため、アップコンバージョン法(高周波変換法)と呼ぶ。
 
※7 和周波光発生装置 
 周波数ω1の光とω2の光から、両者の周波数の和の周波数(ω1 +ω2)をもつ新たな光が発生する現象を、和周波光発生という。和周波光発生には反転中心がなく、したがって2次非線形光学効果を有する特殊な光学結晶を用いる。この結晶に2つの光を入射し結晶の向きをうまく調節すると、結晶内の各点で発生する和周波光が互いに強めあう条件(位相整合条件という)をみたし、強い和周波光を発生する。
 今回の実験ではβ-BaB2O4という結晶を用い、時間幅10兆分の1秒のレーザー光と試料からの蛍光との間の和周波光を発生させた。和周波光は、レーザー光が当たっている10兆分の1秒の間だけ発生し、しかもその強度は蛍光強度に比例するため、この和周波光発生過程は、10兆分の1秒だけ蛍光を通す一種の高速光スイッチの役目をはたしている。  

◆図1 二量体における二重水素移動反応の模式図 
 二重水素移動反応は、2つの水素結合において結合に関与する水素(H)がともに移動する反応を指す。水素結合は一般にX-H・・・Yの形をとり、X-Hを水素の供与体、Yを受容体と呼ぶ。X、Yは窒素、酸素、フッ素、塩素、臭素などの電気陰性度の大きい原子である場合が多い。7-アザインドールの場合、X、Yともに窒素(N)であり、2つのN-H・・・N水素結合により2分子が会合して二量体を形成している。
 この二量体に紫外線を照射すると、エネルギーの高い電子励起状態となって電子分布が変化するため、供与体の酸性度が大きくなり、水素を放出する傾向が強まる。逆に、受容体では塩基性度が大きくなり、水素を引き寄せる傾向が強まる。この結果、水素は供与体側から受容体側へと移動する。  
 
◆図2 観測した7-アザインドール二量体の蛍光強度の超高速時間変化 
 7-アザインドール二量体に波長313ナノメートルの紫外光を照射した後に観測される二量体の蛍光強度(水色)はすばやく減衰し、およそ1兆分の数秒以内に消えている。これは二重水素移動反応により二量体が消滅することに対応する。一方、互変異性体の発する蛍光(緑色)はだんだんと強くなり、およそ1兆分の数秒で一定値に達している。これは反応生成物である互変異性体が生成してくることに対応する。詳しい解析の結果、両者は同じ速度で時間変化することが判明した。 

◆図3 7-アザインドール二量体の二重水素移動の反応機構 
 今回の実験で、水素結合に関与する2つの水素(赤色で表示)が同時協奏的に移動し、約1兆分の1秒で二量体から互変異性体が直接的に生成することがわかった。1つの水素だけが動いた中間状態を経由する段階的反応機構(点線で表される経路)は否定された。 

(※ 図1~3は関連資料を参照してください。)

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