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ニュースリリースのリリースコンテナ第二倉庫

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2025'02.11.Tue
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2007'07.09.Mon

NTTとJST、雑音のない素子で原子を安定に閉じ込めることに成功

雑音のない素子で原子を安定に閉じ込めることに成功 

-電源不要の新型アトムチップ(※1)、量子コンピュータ開発に新たな道-


 日本電信電話株式会社(以下、NTT、東京都千代田区、代表取締役社長:三浦惺)と、独立行政法人科学技術振興機構(以下、JST、埼玉県川口市、理事長:沖村憲樹)は、真空中の原子を固体表面近くに捕捉することができる新型の素子、超伝導永久電流アトムチップを開発し、原子を安定に捕捉できることを実証しました。
 NTTの物性科学基礎研究所(※2)(以下、NTTの研究所)とJSTが開発した超伝導永久電流アトムチップは、チップ表面に作られた超伝導体の閉回路を流れる永久電流により磁場を発生させるため、外部電源を必要とせず、原理的にまったく雑音が発生しないことから、従来のアトムチップで課題となっていた電源や熱による雑音の問題を根本的に解決し、原子一つ一つを制御する技術へとつながるものと考えられます。さらに、この技術によって原子を思いのままに配列することが可能となれば、原子を量子ビットに用いた量子コンピュータの実現に新たな道が開かれるものと期待されます。今回の成果は2007年6月29日(日本時間30日)発行の米国科学誌「Physical Review Letters」で発表されます。
 本研究は、JSTの戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CRESTタイプ)の研究領域「量子情報処理システムの実現を目指した新技術の創出」(研究総括:山本喜久)の研究課題「中性原子を使った量子演算システムの開発」(研究代表者:清水富士夫 NTTリサーチプロフェッサ)により行われました。


<開発の経緯> 
 量子コンピュータの構成要素である量子ビット(※3)として、半導体ナノ構造や超伝導接合などの微小固体素子の研究が盛んに進められています。しかしながら、これらの素子では個々の量子ビットの特性が微細加工によって決まるため、複数の量子ビットを用いて演算を行う場合、加工の精度やばらつきが大きな問題となります。
 また、固体では原子同士が密接しているため、原子の熱振動などの影響によって、量子状態が壊れやすいことが問題となっています。一方、原子が真空中に単体で存在する場合は、他の原子からの影響を受けないため、量子状態が長く保たれます。また原子を量子ビットとして用いた場合、エネルギー準位間隔など、個々の量子ビットの特性は原子の種類によって決まっているため、量子ビットごとのばらつきの問題もありません。このように真空中の原子は量子ビットとして優れた特性を持っていますが、空間を無秩序な方向に飛び回っているため、その運動を制御しない限り量子ビットとして用いることはできません。
 アトムチップは、エレクトロニクスの技術によって原子の動きを制御する素子で、それによって真空中の原子が持つ量子ビットとしての優れた特性を引き出すことが可能になるものと期待されています。その原理は、素子表面に作りつけた微小な回路に電流を流し、その電流が発生する磁場によって原子を捕まえるというものです。しかしながら、従来のアトムチップでは、電源や熱による雑音のため、原子を閉じ込める磁場が不安定で、多数の原子の集団を捕捉することはできても、数個レベルの原子を安定した状態で閉じ込めることは不可能とされていました。
 今回私たちは、電源を必要とせず、かつ原理的に全く雑音が無い新型のアトムチップを開発し、そのような素子を用いて実際に原子を安定的に捕捉することができることを世界で初めて実証しました。


<実験のポイント> 
(1)外部電源を必要としない、超伝導永久電流アトムチップを開発
 サファイア基板上に作成した超伝導体(MgB2)のループ状回路を流れる永久電流(※4)により、電源不要のアトムチップを実現しました(図1)。今回開発したアトムチップの特徴は、回路の一部にレーザ光を照射することで超伝導状態を壊し、回路を開閉することができる点にあります。永久電流は、この技術を用いて以下の手順により発生させました(図2)。 
<1>素子全体を液体ヘリウム温度(絶対温度4.2度)に冷却。 
<2>回路が超伝導状態(電気抵抗ゼロの状態)になったところで回路の一部にレーザ光を照射し、部分的に温度を上昇させ超伝導状態を壊し、回路を開く。
<3>外部から回路に垂直に磁場を加えた後、レーザ光を止め回路を閉じ磁束をループ内に閉じ込める。
<4>外部から回路に加えた垂直磁場を取り除くと、閉じ込められた磁束を一定に保つように、ループ回路に永久電流が流れ始める。

(2)アトムチップ上の空間にルビジウム原子(※5)が80秒以上閉じ込められることを実証
 ループ回路に永久電流を流した後に、磁気光学トラップ(※6)によって冷却されたルビジウム原子をチップの近くまで運び、永久電流が作る磁場と、アトムチップ面に平行に加えた別の外部磁場(以下、補助磁場)によって作られる閉じ込めポテンシャルによって、アトムチップ上の小さな空間(大きさ:1.6×0.1×0.1mm3)に原子を閉じ込めました。原子が閉じ込められている様子は、チップに平行に光を入射し、透過する光に映る原子の影を撮影することによって観察することができます(図3、図4)。また、閉じ込められた原子のチップ表面からの距離や空間的な広がりから、逆に、ループ回路を流れる永久電流の大きさを2.5アンペアと見積もることができます。この実験では、永久電流に捕まえられた原子は、アトムチップ表面から0.3ミリメートルの位置に80秒以上とどまっていることが確認されました。また、捕捉された原子の数は約60万個、温度は200マイクロケルビンと推測されます。


<今後の展開>
 今後は、素子の構造に工夫を施し、補助磁場を必要としない、完全自己完結型の素子の開発に取り組んでいきます。
(1)原子一つ一つを捕捉する技術開発へ
 今回開発した超伝導永久電流アトムチップは、原理的に全く雑音がないものと考えられ、この技術を発展させることで、原子1個1個を捕まえる技術へ道が開かれるものと考えられます。

(2)原子を量子ビットとした量子コンピュータの実現につながる技術へ期待
 固体素子の上で原子1個1個を思いのままに配列させることが可能になれば、原子を量子ビットとした量子コンピュータの実現につながる技術として期待されます。


◇用語解説
※1 アトムチップ 
 表面近傍に原子を捕捉することのできる固体素子。通常は、固体表面上の小さな回路を流れる電流が発生する磁場によって原子を捕捉するタイプのものを指す。本研究でも用いた、Z型形状の電流とその中央の電流に垂直かつチップ面に平行に加えられた外部磁場によって原子を捕捉するZ型磁気トラップが最もよく使われる。

※2 NTT物性科学基礎研究所 http://www.brl.ntt.co.jp/
 ネットワーク、情報処理技術における処理能力、セキュリティの壁を越える新原理・新コンセプトの創出をミッションとし、イノベーションにつながる基礎技術の開拓による中長期的な事業貢献を目指すとともに、科学技術への貢献も視野に入れ、研究開発を行っています。

※3 量子ビット 
 量子2準位系を持つ量子コンピュータの基本要素。現在、量子ビットとして研究されているものには、原子のほか、イオン、核スピン、光子、超伝導接合、半導体ナノ構造などがある。

※4 (超伝導)永久電流 
 外部起電力なしに超伝導回路を流れ続ける超伝導電流。原理的に電気的な雑音を発生しない。

※5 ルビジウム原子 
 最外殻に電子1個をもつアルカリ金属に属する原子(元素記号:Rb、原子番号:37)。半導体レーザを光源としてレーザ冷却することが出来ることから、多くの研究に用いられている。2001年ノーベル物理学賞の授賞対象となった、世界初の原子ガス中におけるボーズ凝縮体生成の実験にも用いられた。

※6 磁気光学トラップ 
 レーザと磁場により原子の運動エネルギーを奪い、空間の限られた場所に原子を閉じ込める方法。磁場による原子エネルギー準位のゼーマンシフトと、光共鳴および自然放出を利用している。

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