情報通信総合研究所、「携帯電話サービス普及による日本経済への波及効果」に関する調査結果を発表
モバイルコンテンツ、コマースの経済波及効果は
2010年で2006年の4倍の2.4兆円に。
垂直統合モデルの恩恵で音楽配信の経済波及効果は1,300億円増。
~携帯電話サービス普及による経済波及効果を調査~
(株)情報通信総合研究所(本社:東京都中央区、代表取締役社長:藤田潔)は、「携帯電話サービス普及による日本経済への波及効果」に関する調査研究を実施し、このほど結果をまとめました。
■経済波及効果2010年で2006年の4倍の2.4兆円に。モバイルコマース、特に物販系モバイルコマースが成長を牽引。
モバイルコンテンツとモバイルコマース(モバイル上位レイヤ)の経済波及効果は2010年で2006年の4倍の2.4兆円に成長すると見込まれます(図表1)。
特にモバイルコマース市場は、物販系コマースの書籍や化粧品を中心に急増することが見込まれ、2006年では2,378億円だった経済波及効果が、2010年では6.3倍の1兆4,870億円の規模まで拡大すると予測されます。
<図表1:モバイル上位レイヤの経済波及効果の推移>
※ 関連資料参照
一方、モバイルコンテンツの経済波及効果は、モバイルゲームを中心に増加し、2006年の3,801億円から2010年の9,225億円へと2.4倍に成長すると見込まれます。無料のケータイゲーム&SNSサイト「モバゲータウン」の会員数が5月に500万人を突破したことでも分かるように、モバイルゲームの利用は増加していますが、この動きがさらに加速し、経済波及効果は2010年で3,581億円に達する見込みです(図表2)。
なお、モバイル広告の経済波及効果は2006年の390億円から2010年の791億円へと2倍に成長すると予測されます。
携帯電話加入者数の増加は頭打ちとなってきていますが、今後はモバイルコンテンツやモバイルコマースが伸びていくことで、モバイル関連産業全体の経済波及効果が拡大していくものとみられます。
<図表2:2010年のモバイル上位レイヤの経済波及効果の内訳>
※ 関連資料参照
経済波及効果と同様に、雇用創出効果に関しても、モバイル上位レイヤの伸びは大きいと見込まれます。モバイル上位レイヤは、2010年で33.2万人の雇用を生み出すと予測されますが、これは2006年(8.2万人)の4倍の規模です。
モバイルコマースの雇用創出効果は、経済波及効果と同様に、モバイルコンテンツよりも伸び率が大きく、2006年の3.6万人から2010年の22.2万人へと6.1倍に拡大すると予測されます。ただし、成長の中心は経済波及効果の場合とは異なり、労働集約的産業の食品・飲料と衣類・アクセサリーです(図表3)。
モバイルコンテンツの雇用創出効果は、経済波及効果と同様にモバイルゲームを中心に増加し、2006年の4.5万人から2010年の11.0万人へと2.4倍に成長する見込みです。
■雇用創出効果も2010年で2006年の4倍の33.2万人に成長。特に食品・飲料と衣服・アクセサリーのモバイルコマース増加が成長を牽引。
<図表3:2010年のモバイル上位レイヤの雇用創出効果の内訳>
※ 関連資料参照
■垂直統合モデルで音楽配信の経済波及効果は1,300億円増。雇用創出効果は1.5万人増。
モバイルコンテンツの経済波及効果や雇用創出効果の拡大が期待できる背景には、通信キャリアが課金決済プラットフォームや携帯電話端末の機能を決定するという垂直統合モデルが存在したことにより、モバイルコンテンツ市場がうまく立ち上がったことがあったといえます。
そこで、音楽配信サービスに関して、垂直統合モデルが存在したモバイルと存在しなかった固定系の経済波及効果を2004年の経済モデルで推定したところ、携帯電話音楽配信は1,350億円、インターネット音楽配信は49億円であり、その差は約1,300億円という数値になりました(図表4)。
同様の差を雇用創出効果でみると、携帯電話音楽配信が1.6万人、インターネット音楽配信が590人で、その差は約1.5万人となりました。
垂直統合モデルの有無によって、1,300億円の経済波及効果と1.5万人の雇用創出効果の差が生まれたということは、少なくとも市場の立ち上がりの時期において、モバイル産業の垂直統合モデルがもたらした恩恵は大きかったといえます。
<図表4:音楽配信サービスの経済波及効果>
※ 関連資料参照
■通信キャリア主導による技術進歩は、2000年時点で携帯電話機産業から
液晶素子産業への130億円の経済波及効果を創出した可能性あり。
また、モバイル産業の垂直統合モデルの恩恵は上位レイヤサービスに関するものだけでなく、携帯電話機の部品に関しても考えられます。端末メーカーが通信キャリアの求める機能を追及したことで、日本の携帯電話部品メーカーへの経済波及効果が増加し、性能向上等の好影響が生じたといえます。
そこで、垂直統合モデルによる経済波及効果は最大でどの程度だったのか(携帯電話機の高機能化が全て垂直統合モデルの影響だったと仮定した場合)を把握するために、高機能化が起こらなかった場合のシミュレーションを行い、実際の経済波及効果と比較を行いました。
1995年の携帯電話機の生産技術のままで2000年になった場合をシミュレーションしたところ、携帯電話機産業から液晶素子産業への経済波及効果は91億円であり、実際の経済波及効果220億円のうち6割にあたる130億円分小さくなります。同様なシミュレーションで、携帯電話機産業から液晶素子産業への雇用創出効果の減少分は1,096人です。
今回のシミュレーションはデータの制約から1995年と2000年で行いましたが、2001年以降の携帯電話機の機能の向上(カメラ機能やワンセグ受信機能の搭載)は目覚しいものがあり、2001年以降で考えれば技術変化の影響はより大きいと考えられます。したがって、モバイル産業の垂直統合モデルが、携帯電話機の高機能化を促すことで、携帯電話部品産業に与えた影響もより大きいと考えられます。
なお、今回の分析は、昨年12月に公表した「モバイルおよびICT産業による日本経済への経済波及効果」に関する継続研究です。
※本研究は(株)NTTドコモより委託を受けて行ったものです。
■報告書全文の公開
○今回の報告書は、弊社ホームページ(URL http://www.icr.co.jp/ )に公開します。
○公開される内容は、調査研究の成果全体を取りまとめたものです。
<会社概要>
社名 株式会社情報通信総合研究所(URL http://www.icr.co.jp )
1985年6月に、国内外の情報通信に関する調査・研究を専門とするシンクタンクとして設立。固定通信や移動通信、インターネット・IT、通信と放送の融合から地域の情報化など、情報通信関連の調査研究、コンサルティング、マーケティング、出版事業などの活動を展開しています。