NICT、「医療支援無線システム技術」に関する共同研究を開始
ICT技術を利活用した“医療・ヘルスケア用無線システム開発”共同研究開始
大学・産業界と連携した医療ICTコンソシアムが始動
独立行政法人情報通信研究機構(以下、NICT。理事長:長尾 真)は、19の民間企業及び2つの大学と共同で医療ICTコンソシアム※1を組織して、「医療支援無線システム技術」に関する研究を開始しました。本共同研究では、医療・ヘルスケア分野へのICT技術の効果的な貢献を目指して、2009年3月末までの期間を定めて、新システム開発のための基盤的な研究を実施します。
【背景】
医療支援無線システムとは、医療・ヘルスケア・福祉等に役立つICT技術を活用した無線システムのことをいいます。少子高齢化が進む現在、ICT技術の医療・福祉分野への利活用は社会的、経済的に大きな効果があるとされ、さまざまな機関から注目されています※2。
こうした背景の中NICTでは、平成18年4月、新世代ワイヤレス研究センター(研究センター長:小川博世)に新医療支援ICTグループ(グループリーダ:河野隆二(横浜国立大学教授))を設置して関連する研究を開始しました。しかし、医療支援無線システムは、医学の知識を必要とするのみならず、使用される機器が医療用途という特殊性から、大学の医学部や医療機器メーカ等、外部との連携強化が必要でした。
【実施する共同研究について】
NICTは、19の民間企業および2つの大学と共同で医療ICTコンソシアムを新たに組織して、「医療支援無線システム技術」に関する研究を開始します。本共同研究では、医療・ヘルスケア分野へのICT技術の効果的な貢献を目指して、2009年3月末までの期間を定めて、新システム開発のための基盤的な研究を実施します。
本共同研究は、YRP研究開発推進協会(会長:甕昭男)の協力により産学官連携体制を構築し、医療支援無線システムの研究開発を共同で迅速かつ効果的に行っていくこととしています。研究項目は、システム設計技術(特にボディエリアネットワークBAN※3等の無線システム)、電波伝搬、ネットワークへの要求条件、無線による治療機器の高度化技術など広範囲に及びます。併せて、医療支援無線システムに関する国内での標準化や規格化はもとより、IEEE※4802など国際機関での標準化活動にも積極的に貢献し本共同研究で開発した技術等を世界に提供していきます。
【今後の展望】
本分野研究の進展とともに、医療機器への無線技術導入が加速され、生体情報を無線で遠隔地にいる医師等に自動的に送信して長期的な診断やアドバイスを受けることが可能になります。あるいは重症の患者に対しては、医師の操作により注射器を遠隔操作で動かし、薬剤を時間管理の煩わしさなく投与できるようになるかもしれません。
こうしたことから本共同研究による成果は、医科学の進歩と医療サービスの充実に貢献するものであり、社会生活に及ぼす影響は極めて大きく、また、ICT産業に新たな市場と技術開発の契機をもたらすものと考えています。
<補足説明>
※1 医療ICTコンソシアム参加企業等一覧
NTTアドバンステクノロジ株式会社、沖電気工業株式会社、オムロンヘルスケア株式会社、オリンパスメディカルシステムズ株式会社、株式会社KDDI研究所、株式会社三技協、シーメンス株式会社、シャープ株式会社、株式会社津村総合研究所、株式会社東芝、日本信号株式会社、ネットワンシステムズ株式会社、株式会社日立製作所、富士フイルム株式会社、富士通株式会社、富士通コンポーネント株式会社、物産テクセルエレクトロニクス株式会社、松下電工株式会社、テルモ株式会社、国立大学法人横浜国立大学、公立大学法人横浜市立大学、NICT
※2 ICT技術の利活用の推進
医療の情報化に関しては、厚生労働省が平成13年12月に「保険医療分野の情報化に向けてのグランドデザイン」を策定し、電子カルテシステムやレセプトのオンライン化等の数値目標を設定して推進してきた。また、本年度スタートした第三期科学技術基本計画の理念の一つの「健康と安全を守る」や、総務省のu-Japan政策で掲げられた「医療におけるICT利活用の促進」で優先的に取り組むべき課題とされている。
※3 ボディエリアネットワーク(BAN)
数m内外のごく近距離で通信を行う無線ネットワークシステムの総称。ヘルスケアやメディカル用途などに向けた無線通信方式に関して、米IEEE802委員会が2007年初頭から標準づくりを開始することが明らかになった。
※4 IEEE(Institute of Electrical and Electronic Engineers)
ニューヨークに本部を置く米国の電気電子学会。通信方式、電子機器、電子部品等の標準化活動を行っている。この標準化活動で標準化された規格は米国内に止まらず世界標準となっているものが多い。