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2007'07.11.Wed

理化学研究所、抗がん剤インドロカルバゾールの骨組みを構築する酵素の立体構造を解明

抗がん剤インドロカルバゾールの骨組みを構築する酵素の立体構造を解明
-放線菌がインドロカルバゾールを作り出すメカニズムの一端が明らかに-  

◇ポイント◇ 
●インドロカルバゾール生合成の様子を酵素と骨組み材料の複合体結晶で解析 
●合成酵素シトクロムP450StaPは類似酵素と異なる特殊な触媒作用で合成 
●天然のインドロカルバゾールがもつ非対称な修飾の原因を複合体構造から解明 
 

 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、富山県立大学(田中正人学長)との共同研究で、抗がん剤としての期待が近年高まっているインドロカルバゾールを合成する重要な酵素「シトクロムP450StaP(ピーヨンゴーレイ・スタピー)」の立体構造を解明することに成功しました。これは、理研播磨研究所の大型放射光施設SPring-8を用いた、放射光科学総合研究センター城生体金属科学研究室の永野真吾専任研究員と城宜嗣主任研究員、および富山県立大学尾仲宏康講師らによる共同研究の成果です。
 インドロカルバゾールは、放線菌が作り出す物質で、抗がん剤としての臨床試験が進むなど、その医学利用に期待が高まっている一連の化合物です。研究グループは、インドロカルバゾールを合成する放線菌の酵素の中で、シトクロムP450StaPと、インドロカルバゾールの骨組み材料であるクロモピロリン酸(CPA)との複合体を結晶化して構造解析した結果、CPAとシトクロムP450StaPとが水素結合と呼ばれる相互作用で強固に結合している状態をとらえました。これらの立体構造情報により、シトクロムP450StaPがインドールカチオンラジカルと呼ばれる特殊な中間体を経てインドロカルバゾールの骨格を作り出していることを明らかにしました。さらに、放線菌より発見されるインドロカルバゾール系化合物の多くは、その基本骨格が非対称形に化学修飾を受けています。その非対称性の原因については不明でしたが、今回シトクロムP450StaPのなかでCPAが結合する部位の形状にその原因があることを突き止めました。この成果を利用して、今後より高い薬理作用をもつ新たなインドロカルバゾール系抗がん剤の創製へ繋がると期待されます。
 本研究成果は、米国科学アカデミー紀要『Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America:PNAS』(7月10日号)に掲載されるに先立ち、7月2日の週にオンライン版に掲載されます。 


1.背 景 

 インドロカルバゾール※1は放線菌※2が生産する一連の化合物で、現在6種類のインドロカルバゾール系化合物が抗がん剤、白血病治療薬、糖尿病性眼疾患の治療薬として臨床試験が進められており、医学的利用価値が高い化合物として国内外で高い注目を集めています。2002年、富山県立大学の尾仲宏康講師は、インドロカルバゾールの一種であるスタウロスポリンを作り出す一連の酵素を世界に先駆けて発見し、放線菌がスタウロスポリンを作り出す過程を解明しました(図1)。 スタウロスポリンは、アミノ酸のひとつであるトリプトファンを出発物質として、クロモピロリン酸(CPA)を経て、インドロカルバゾールの基本骨格が構築された後、糖鎖が付加されることによって生成されます。尾仲講師らは、CPAからインドロカルバゾールの基本骨格を構築する重要な段階に、地球上の大多数の生物が持つ、アミノ酸400~500個とヘム※3からなるシトクロムP450※4と呼ばれる酵素の一種「シトクロムP450StaP」が関与していることを突き止めました。しかし、この酵素がどうやってインドロカルバゾールの基本骨格を構築するのか、その仕組みについてはなぞのままでした。 


2.研究手法と結果 

 理研播磨研究所の永野真吾専任研究員および城宜嗣主任研究員は、2006年5月より尾仲講師らとの共同研究を開始し、このなぞの解明に取り組んでいます。研究グループは最初に、尾仲講師らが、放線菌からクローニングしたシトクロムP450StaP遺伝子を大腸菌体内に組込み、シトクロムP450StaPを生産する遺伝子組換え大腸菌を作り出し、これを用いてシトクロムP450StaPを大量に作り出しました。不純物をほとんど含まない状態にまでシトクロムP450StaPを精製した後、インドロカルバゾール骨格の材料となるクロモピロリン酸(CPA)を加え、シトクロムP450StaPとCPAとの複合体の単結晶を作ることに成功しました。これらの結晶を大型放射光施設SPring-8の理研構造生物学ビームラインII(BL44B2)で測定し、シトクロムP450StaPとCPAとの複合体の立体構造を原子レベルで解析しました。
 その結果、CPAはシトクロムP450StaPの中に水素結合と呼ばれる相互作用によって強固に固定されており、シトクロムP450StaPの中で化学反応の中心的役割を果たすヘムに対してほぼ垂直に位置していることが明らかとなりました(図2)。通常、シトクロムP450は、酸素原子を他の化合物へ添加する反応を行います。シトクロムP450StaPは、炭素-炭素原子の間に結合を作る反応をおこない、これがインドロカルバゾール骨格を作るために重要であることが知られていましたが、その仕組みは明らかとされていませんでした。研究グループは、シトクロムP450StaPの構造を詳細に解析し、CPAから電子が奪われインドールカチオンラジカル※5という特殊な状態を経てインドロカルバゾールの骨組みが構築される、というユニークな反応の仕組みを明らかにしました。また、放線菌で作り出されるインドロカルバゾールの中には、その骨格が非対称に修飾を受けているものが知られていますが(図3)、それがこの酵素のCPAが結合するポケットの形状の非対称性に起因することを見出しました。 


3.今後の期待 

 本成果によって、放線菌では地球上の大多数の生物が持つシトクロムP450に通常とは異なる特殊な触媒反応を請け負わせ、抗がん性抗生物質インドロカルバゾールの基本骨格を作り上げていることが明らかとなりました。今回、明らかになったシトクロムP450StaPの立体構造と、そこから導かれた骨格構築の仕組みに関する知見をもとに、さらに多くの種類のインドロカルバゾール骨格の材料となる分子を効率よく触媒反応できる改良型シトクロムP450StaP酵素を設計することができます。今後は、改良型シトクロムP450StaPを用いた、より高い薬理作用を持つインドロカルバゾール系の新規抗がん性抗生物質の開発へとつながることが期待できます。 


<補足説明>

※1 インドロカルバゾール 
 スタウロスポリンやレベッカマイシンなどインドロカルバゾール骨格を有する天然化合物の総称。放線菌の一種であるStreptomyces sp.(ストレプトマイセス エスピー)TP-A0274等が生産する。インドロカルバゾール化合物群は、がん化メカニズムに関与するプロテインキナーゼCの働きを強力に抑えるため、抗がん剤としての開発が期待されている。これまでインドロカルバゾール化合物がどのようにして放線菌体内で作り出されているかが不明であったが、近年、遺伝子工学の進展とともにわかり始めた。 
 
※2 放線菌 
 主に土壌中に生育するグラム陽性細菌で、生態系の物質循環において分解者の役目をしている生物の一種である。二次代謝産物として様々な種類の複雑な化合物を生産することが知られており、その一部は抗生物質をはじめとする生理活性物質として人類に利用されている。これまでに発見された微生物由来の薬剤、農薬などの有用な化合物は10,000種類と言われるが、そのうちの3分の2は放線菌の生産物である。 
 
※3 ヘム 
 ポルフィリンと呼ばれる環状平面分子の中心に鉄原子をもつ化合物。ポルフィリン環の修飾の種類や位置によっていくつかの種類に分類される。ヘムを分子中に取り込んではじめてその機能が発揮されるタンパク質をヘムタンパク質と呼び、通常赤い色をしている。酸素運搬体であるヘモグロビン、ミオグロビン、電子伝達に関与するシトクロム類、酵素作用をもつペルオキシダーゼなどがヘムタンパク質の代表例。 
 
※4 シトクロムP450 (ピーヨンゴーレイ) 
 アミノ酸からなるタンパク質に加えてヘムをもち、空気中の酸素分子を利用して酸素原子を様々な分子に添加する働きを持つ酵素。鉄原子に一酸化炭素が結合すると450ナノメートルの波長の光を吸収する色素(Pigment)という意味からP450と名前がつけられている。哺乳類では薬物、生体外異物の代謝にかかわることから生体防御に重要であると共に、ステロイドホルモンなど生命活動の調節を行う化合物の合成にも関わっている。これまでに約7,000種類近くのP450が生物界において発見されており、ヒトの薬物代謝をおこなうものはシトクロムP450 3A4のように、それぞれに固有の名前が与えられている。 
 
※5 インドールカチオンラジカル 
 通常、安定な化合物のなかで電子は2個ずつの対として存在しているが、負電荷を持つ電子が奪われると電子が孤立した状態である遊離基(ラジカル)の性質をもち、かつ正電荷(カチオン)を帯びたカチオンラジカルとなる。シトクロムP450StaPはCPAの持つ2つのインドール基から電子を奪い取り、インドールカチオンラジカルを経てインドール基の間に新たな結合を作り、インドロカルバゾール骨格を作ることが示唆された。 


 ※図1~3は添付資料を参照

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