JFEスチール、被削性に優れた高強度Niレス粉末冶金用鉄粉「FMシリーズ」を発売
被削性に優れた高強度Niレス粉末冶金用鉄粉(FMシリーズ(注1))を開発
当社はこのたび、粉末冶金用途向けに、被削性に優れ、焼結後未熱処理の状態で600MPa以上の引張強さを発現する合金鋼粉「FM600」ならびに焼結・熱処理後1000MPa以上の引張強さを発現する合金鋼粉「FM1000」を開発しました。
従来、高強度の焼結部品を製作する場合、ニッケル(Ni)やモリブデン(Mo)など高価な合金成分を数%含有する合金鋼粉(鉄基原料粉末)を用いるか、もしくは、部品製造時に浸炭焼き入れなどの熱処理や、鍛造、転造(注2)など複数の処理工程を組み合わせることにより、高強度化が図られてきました。いずれも部品製造コストの上昇につながり、特に鉄基原料粉末に関しては、昨今の合金成分原料価格の高騰に伴う、価格上昇が問題となっていました。
当社では、ニッケルを含有しないで、高被削性かつ高強度の焼結部品を実現する合金鋼粉の開発を進めてきましたが、この度、2種類の強度レベルの新合金鋼粉開発に成功いたしました。焼結後未熱処理の状態で、600MPa以上の引張強さを発揮する合金鋼粉「FM600」と、焼結後、熱処理を行うことで、1000MPa以上の引張強さを発揮する合金鋼粉「FM1000」です。従来は、ニッケルを4%、銅(Cu)を1.5%、モリブデンを0.5%含有する合金鋼粉が使用されてきましたが、(1)合金組成を最適化することと、(2)被削性改善効果を持つ当社独自の偏析防止処理を施し、より低い成形圧力でより高い成形密度の圧粉体とすることにより、ニッケルを添加することなく、上記の特性を確保することに成功しました。また同時に、これまで使われてきたMnSのような被削性改善剤を添加した材料と同等以上の切削性も示します。
【 FM600:被削性に優れ、焼結後未熱処理の状態で、引張強さ600MPaを実現する合金鋼粉 】
成形時の圧粉密度も686MPa(7t/cm2)成形で7.25Mg/m3となり、優れた圧縮性を示します。従来の焼結方法、条件にて焼結可能で、雰囲気などの制約はありません。得られた焼結体は、切削性が良好で600MPa以上の引張強度を示します。
【 FM1000:被削性に優れ、焼結・熱処理後、引張強さ1000MPaを実現する合金鋼粉 】
通常の焼結を行った後に、900℃、60分間の浸炭・焼き入れ(注3)後、180℃、60分間焼き戻ししたものは、1000MPa以上の引張強度を示します。また、成形性に優れ、熱処理前の焼結体は良好な切削性を示します。
いずれも、合金成分の含有量を低減したことで、従来用いられてきた4%Ni材に比べ、大幅なコストダウンが可能になります。スプロケット(注4)など自動車のエンジン・足回り部品への適用が期待され、今後、お客様にサンプルを評価頂き、順次商品化していく予定です。
当社は、日本国内で唯一の総合鉄粉メーカーとして、還元鉄粉(注5)、アトマイズ鉄粉(注6)および合金鋼粉を製造しております。当社は今後も、鉄粉の新たな需要分野の開拓、普及を図ると共に、更に高品質、高機能の商品開発に注力し、お客様の利便性の向上に努めてまいります。
(参 考)当社の鉄粉製造能力について
工 場:東日本製鉄所内
能 力:鉄粉生産能力(年間) 80,000トン程度
<内訳> 還元鉄粉 36,000トン程度
アトマイズ鉄粉 45,000トン程度
(内、クリーンミックス(注7)粉 31,000トン程度)
(注1)FMシリーズ :Niレスで引張強さに優れる合金鋼粉
(注2)転造 :棒状の加工素材を回転させながら、転造ダイスと呼ばれる工具により成形する方法
(注3)浸炭・焼き入れ :加工後の部品表面の強度を確保するために行う熱処理方法
(注4)スプロケット :チェーンと組み合わせて動力を伝達する歯車
(注5)還元鉄粉 :圧延工程で発生するミルスケールを還元して製造する鉄粉
(注6)アトマイズ鉄粉 :水アトマイズ法(高圧水で金属溶湯を冷却させて粉化する方法)によって製造される鉄粉
(注7)クリーンミックス :弊社偏析防止粉の総称