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2024'09.22.Sun
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2007'12.20.Thu

理化学研究所、アンモニア態窒素の吸収に働く輸送体の植物における役割を解明

土壌中のアンモニア態窒素を吸収する輸送体の役割を解明
- アンモニア態窒素の吸収とバイオマス生産の関係が明らかに -


◇ポイント◇ 
 ●3種のAMT1型アンモニウム輸送体がアンモニア態窒素の吸収の90%を担当
 ●作物の窒素利用効率の改良など生産性を高める道を拓く 
 ●窒素肥料による富栄養化問題の解決に期待 

 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、アンモニア態窒素の吸収に働くAMT1型アンモニウム輸送体の植物における役割を明らかにしました。理研植物科学研究センター(篠崎一雄センター長)基礎代謝研究チームの高橋秀樹チームリーダーとドイツ・ホーヘンハイム大学のNicolaus von Wiren(ニコラス・フォン・ヴィーレン)教授との共同研究の成果です。
 窒素(N)は、リン(P)、カリウム(K)とならぶ植物の生育に欠かせない肥料の3大要素です。植物は窒素源として土壌に含まれるアンモニア態窒素と硝酸態窒素を利用します。アンモニア態窒素は、動植物の遺骸や排泄物などに由来するタンパク質、アミノ酸、尿酸、尿素などの有機窒素が土壌中の微生物により分解され生成されます。硝酸態窒素は、アンモニアが微生物によりさらに酸化され生じます。
 植物は、土壌に含まれるこのアンモニア態窒素を根から吸収しますが、その際、アンモニウム輸送体というタンパク質が働きます。植物のAMT1型アンモニウム輸送体は、細胞膜に存在するタンパク質で、アンモニウムイオンを選択的に通過させる機能を持っています。AMT1型アンモニウム輸送体は、低濃度のアンモニウムイオンを効率よく細胞内へ取り込むことができる高親和型の輸送体であり、特に窒素肥料が不足したときに根で発現し、輸送体として能力を発揮します。今回の研究では、シロイヌナズナのノックアウト植物を用いて、根でアンモニア態窒素の吸収を担当する4種のAMT1型アンモニウム輸送体の機能をすべて明らかにしました。また、これらの輸送体のうち、AMT1;1、AMT1;2、AMT1;3の3種によるアンモニア態窒素の吸収が、植物バイオマスの生産に重要であることがわかりました。
 窒素肥料は、作物の生産性を向上させるうえで不可欠です。一方、窒素肥料の流出による富栄養化が環境問題としてクローズアップされています。今回のアンモニウム輸送体に関する研究成果は、作物の窒素利用効率を高める技術への応用に役立つことが期待されます。
 本研究成果は、米国の科学雑誌『The Plant Cell』(8月号)に掲載されます。

1.背景 
 窒素(N)は、リン(P)、カリウム(K)とならぶ、農業作物をはじめとする植物の生育に欠かすことができない3大肥料のひとつです。土壌にはアンモニア態窒素と硝酸態窒素が存在します。アンモニア態窒素は、動植物の遺骸や排泄物などに由来するタンパク質、アミノ酸、尿酸、尿素などに含まれる有機窒素が、土壌中の微生物により分解され生成されます。一方、硝酸態窒素は、アンモニアが微生物によりさらに酸化されることで生じます。植物は、こうして生じたこれらの無機窒素を窒素源として利用します。その際、アンモニウムイオンや硝酸イオンをそれぞれ選択的に通過させるイオン輸送体タンパク質が細胞膜で機能します。
 植物のゲノム上には、数百個のイオン輸送体タンパク質が存在します。それらは各栄養素の吸収を選択的に行うために備わっていますが、しばしば、同じ(あるいは類似した)機能を持つ輸送体タンパク質が複数個存在することがあります。特に植物のように高度に進化した多細胞の集合体では、基本的な機能が同じであったとしても、透過するイオンへの親和性や発現場所が異なる複数の輸送体が必要であると考えられます。アンモニア態窒素の吸収や輸送についても例外ではなく、シロイヌナズナには5種類のAMT1型アンモニウム輸送体が存在します。しかし、それぞれの輸送体タンパク質の機能がどの組織、細胞、栽培条件で重複または独立して働くのか、その詳細は明らかではありませんでした。

2.研究手法と成果 
 理研の基礎代謝研究チームは、ドイツ・ホーヘンハイム大学のNicolaus von Wiren教授の研究グループとの共同研究を展開し、シロイヌナズナの根でアンモニア態窒素の吸収に働くAMT1型アンモニウム輸送体、AMT1;1、AMT1;2、AMT1;3、AMT1;5の4種の機能と発現場所を全て明らかにしました。これら4種の輸送体が根の表皮、皮層、内皮の3つの細胞層で発現し(図1)、アンモニア態窒素の吸収活性をもっていることをシロイヌナズナのノックアウト植物を用いて証明しました。
 具体的には、シロイヌナズナのAMT1型アンモニウム輸送体のノックアウト植物を単離し、アンモニウム吸収機能や植物バイオマスへの影響を調べました。また、AMT1遺伝子とクラゲの緑色蛍光タンパク質(GFP)との融合遺伝子を発現させた植物を観察することにより、それぞれの輸送体が発現する場所を明らかにしました。
 植物の根では、水平方向のイオンの移動が内皮細胞に接着するカスパリー線※1により妨げられています(図1)。この機能によって、内皮細胞およびその外側の皮層や表皮細胞に吸収された栄養素は、内皮細胞の中を通って中心柱※2の内鞘細胞に到達し、道管をつたって地上部へ運ばれます。また、アンモニウムイオンの場合、一部は、根の維管束細胞でグルタミンなどのアミノ酸へ代謝されてから地上部へ輸送されると考えられています。
 研究チームでは、これまで、AMT1;1が根毛と根の表皮、AMT1;3が根毛と根の表皮および皮層で発現することを明らかにしてきました。今回の研究では、さらに、AMT1;2とAMT1;5について解析を進め、AMT1;2が根の皮層と内皮、AMT1;5が根毛と根の表皮で発現するアンモニウム輸送体であることをつきとめました。
 今回の研究では、植物の根におけるアンモニウムイオンの輸送過程を詳細に調べるために、シロイヌナズナのAMT1型アンモニウム輸送体AMT1;1、AMT1;2、AMT1;3とAMT2型アンモニウム輸送体AMT2;1のノックアウト植物を単離し、それらをすべて欠損する4重変異体を作製しました。その結果、4重変異体では野生型植物と比較して地上部のバイオマス量が50%、総窒素量が70%と著しく減少しました。4重変異体の生育は、AMT1;1、AMT1;2、AMT1;3のいずれかを戻した3重変異体で回復しますが、AMT2;1では、この回復機能は表れませんでした。以上の結果から、根毛と根の表皮、皮層、内皮のいずれかの細胞層で機能するAMT1型アンモニウム輸送体のうちAMT1;1、AMT1;2、AMT1;3の3種類がアンモニア態窒素の吸収に重要な役割を果たすことが明らかとなりました。さらに、3重変異体と4重変異体を比較することにより、AMT1;1、AMT1;2、AMT1;3のアンモニウム輸送活性が異なり、それぞれの輸送体が存在する細胞の周囲のアンモニウム濃度に適合した性質を備えていることがわかりました。すなわち、内皮や皮層で働くAMT1;2と比較して、土壌に接する表皮細胞で働くAMT1;1とAMT1;3は、より低い濃度のアンモニウムイオンを吸収できる能力を備えていました。
 また、今回の研究では、シロイヌナズナの根の総アンモニウム吸収活性の約90%がAMT1;1、AMT1;2、AMT1;3によって担われていることが明らかとなりました。4重変異体の地上部のバイオマス量や総窒素量の減少は、これらの3種の輸送体が欠損することによりアンモニア態窒素を吸収できなくなったことが原因と考えられます。4重変異体には、野生型植物の約10%のアンモニウム吸収活性が残存していましたが、この活性は窒素欠乏処理した植物でのみ検出され、非常に低い濃度のアンモニウムイオン(数マイクロmol/L)を吸収することができる輸送体の活性に由来すると考えられます。AMT1;5のノックアウト植物を用いた証明は今後の検討課題ですが、この10%の残存活性は、根毛および根の表皮細胞で発現するAMT1;5に由来するものと推定されます。

3.今後の期待 
 窒素肥料は、植物のバイオマス量を増大させる重要な因子であり、作物の収量を左右します。少ない窒素肥料で安定した収穫を得ること、すなわち窒素利用効率の向上は、農業の経済性だけでなく窒素肥料の流出による環境負荷を減らすための重要な方策です。今後は、農業作物でのアンモニウム輸送体の機能の改変、輸送体の発現を制御する因子の解明、アンモニア態窒素の利用に関する作物の形質評価などが、研究成果の応用へ向けた重要な研究課題になると考えられます。 


<補足説明>
※1 カスパリー線 
 植物は、内皮細胞が相互に接する細胞壁にスベリン(脂質の重合体)を蓄積する。この脂質の層をカスパリー線(Casparian strip)といい、内皮細胞の外から道管などの維管束系のある中心柱への水や栄養分の移動を遮断する隔壁となる。
 
※2 中心柱
 植物の根の中心部分の組織で、道管、師管などの維管束系が存在し、水や栄養分の移動に重要な役割を果たす。皮層と中心柱の間には内皮細胞があり、カスパリー線により水や栄養分の移動が遮断されている。

 
●図1 シロイヌナズナの根の縦断面-アンモニウムイオンの輸送の模式図
 土壌に含まれるアンモニウムイオン(NH4+)は、根毛および表皮細胞でAMT1;1、AMT1;3、AMT1;5の働きにより吸収される。表皮細胞から内皮細胞までは、細胞間隙(細胞壁の中)を通る「アポプラスト経路(apoplastic pathway)」と、アンモニウム輸送体および細胞間の原形質連絡を通る「シンプラスト経路(symplastic pathway)」を経由してアンモニウムイオンが移動する。アポプラスト経路で表皮細胞を通過したアンモニウムイオンは、AMT1;2とAMT1;3により皮層細胞へ取り込まれる。さらに皮層細胞を通過したアンモニウムイオンは、AMT1;2により内皮細胞へ取り込まれる。内皮細胞は水やイオンの透過を妨げるカスパリー線により接着されているため、アンモニウムイオンはシンプラスト経路で内皮細胞の中を通って中心柱の内鞘細胞へ移動すると考えられる。道管へアンモニウムイオンを輸送するタンパク質については現時点では明らかにされていない。
 (※ 関連資料を参照してください。)

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