三菱電機、太陽電池用シリコンウエハーをワイヤ放電加工でスライスする技術を開発
世界で初めてワイヤ放電加工で太陽電池用ウエハーをスライス
「太陽電池用シリコンの放電スライシング技術」を開発
三菱電機株式会社(執行役社長:下村 節宏)は、標準的な150mm角サイズの太陽電池用シリコンウエハーをワイヤ放電加工でスライスすることに世界で初めて成功しました。
現在主流のマルチワイヤソー加工に比べ、シリコンブロックから薄いウエハーを狭い切り代でスライス加工してシリコンを有効利用し、シリコン素材を有効に活用できる可能性が期待されます。
【 開発の背景 】
世界的な環境保護意識の高まりにより、再生可能エネルギー源としての太陽電池に注目が集まっています。しかし、太陽電池の需要が急増するのにつれて原料となるシリコンの需給関係が逼迫し、普及の妨げになりかねない状況となっており、より少ないシリコンで太陽電池を製造するために、シリコンブロックからシリコンウエハーを薄く、狭い切り代でスライスする方法が求められています。
一般に、太陽電池用シリコンウエハーは、マルチワイヤソー※1で一度に多数スライスされます。この方法では、研磨砥粒をワイヤでシリコンに押し付けながら切断するため、切り出すウエハーの厚さを薄くするとウエハーが折損する可能性が高くなり、ワイヤを細くすると断線しやすくなるため、切り代の低減にも限界があります。
ワイヤ放電加工は、ワイヤと加工対象物の微小な間隙に発生させたパルス放電の熱で加工対象物を溶かし去る非接触加工で、切削加工の困難な工具鋼や超硬合金の高精度加工に広く用いられています。太陽電池用シリコンを狭い切り代で薄くスライスする加工への適用が期待されていましたが、現在金型加工などに広く普及しているワイヤ放電加工機では、体積抵抗率が高く、パルス放電しにくい太陽電池用シリコンなどの半導体材料を加工できませんでした。
今回、従来のワイヤ放電加工機で太陽電池用シリコンを加工できない原因が、シリコンの高い電気抵抗だけでなく、電流がシリコンからワイヤへの一方向にしか流れない性質にもあることを見いだし、太陽電池向けシリコン加工専用の単極性電源を開発して、多結晶シリコンブロックから、太陽電池として標準的な150mm角ウエハーのスライス加工に成功しました。
※1:一定の間隔をおいた複数本のワイヤを高速で走行させ、砥粒懸濁液を対象物の表面に押し付けて加工する方法
【 主な開発成果 】
1.標準サイズの太陽電池用シリコンウエハーのスライス加工に成功
通常のワイヤ放電加工機の電源と異なり、印加する電圧の正負が反転しない単極性電源により、体積抵抗率1オームセンチメートル(Ωcm)程度の多結晶シリコンブロックから、直径0.2mmのワイヤを用い、太陽電池として標準的な150mm角ウエハーのスライス加工に成功しました。ウエハー厚さは約0.2mm、切り代は約0.25mm、加工速度は現在のマルチワイヤソーの毎分0.26~0.4mmとほぼ同等の毎分0.267mm(最大値。150mm角換算で加工時間9.4時間)を実現しています。
2.放電スライスウエハーの太陽電池セル作成に成功
従来と全く異なる原理に基づく加工法のため、放電加工時の熱などが太陽電池用シリコンに及ぼす影響が懸念されていましたが、ワイヤ放電加工によりスライスしたウエハーを用いて太陽電池セルを試作し、ハーフサイズ(150mm×75mm)では従来セルと同等の発電効率(15.2%)を確認しました。この結果、放電加工によりスライスしたウエハーが、太陽電池用に使用可能であることが明らかになりました。
3.低環境負荷で加工可能
研磨砥粒を使用しないため、1年に8,500t 程度※2と推定される砥粒の廃棄量削減が期待されます。
※2:全世界の年間太陽電池発電量(発電能力)を1.7GW、スライス砥粒リサイクル率を80%とした場合
【 今後の展開 】
非接触加工というワイヤ放電加工の特長を生かし、厚さ0.1mmの薄肉ウエハースライスを目指します。また、半導体用のシリコンウエハーやSiCウエハーのスライスへの展開を図ります。
【 特 許 】 国内 4件、海外 2件
*添付資料あり。