香川大学、生きたままの細胞を3次元で成分解析できる「単一細胞分光トモグラフィ技術」を開発
香川大が細胞用の“X線CT”技術を確立
薬剤評価システムや疾患診断システムの応用に期待
【新規発表事項】
生きたままの細胞を3次元で成分解析できる「単一細胞分光トモグラフィ技術」を、香川大学工学部助教授の石丸伊知郎の研究グループが開発した。この技術では、高い解像度と感度を持つ分光技術により、細胞の分光断層像を取得することができる。更に、細胞を回転させながら位相差像を観察し、コンピュータにより3次元位相差像を構築することにも成功している。これらの技術により、細胞内の小器官やたんぱく質、脂質などの成分分布を、立体的かつ経時的に高解像で観察できる。つまり、“X線CT(コンピュータ断層撮影法)”技術の様な、細胞の3次元イメージング手法を確立した。
これらの技術を使い、香川大学医学部消化器・神経内科学教授栗山茂樹氏、香川大学農学部応用生物科学科教授竹川薫氏らと行った共同研究では、細胞膜表面に分布する糖タンパク質のみを蛍光染色した細胞の分光断層像を取得できた(図1)。また、乳ガン細胞内部の成分分布を無標識で3次元の位相差像として観察できた(図2)。高解像度で細胞の形態や成分変化を解析できるので、薬剤の評価システムや疾患診断システムへの応用に期待できる。
添付資料:
図1 糖タンパク蛍光分光断層像
図2 乳ガン細胞の断層像
【背 景】
近年、生きたままの細胞を計測する技術が強く望まれている。蛍光標識はGFPに始まり、量子ドットを用いた多色化が進み、FRET解析など、蛍光色の時間的変化から機能解明を行う技術開発が積極的に進められている。これらの技術では、”時間”と”3次元の位置”と”色”の情報がリンクした同時計測技術が重要となる。
【訴求点】
(1)蛍光標識は感度の高い冷却CCDカメラでやっと観察できる程度の微弱光であり、従来の分散型分光器では光の利用効率が低く解像度の高い分光観察には適さなかった。
→光の利用効率が高い分光方式(可変位相差2次元分光方式)
顕微鏡による観察のため、細かい構造まで計測可能
焦点深度の浅い対物レンズを用いており、深さ方向の解像度も高い
合焦位置の分光像のみを計測する為、合焦位置をずらすだけで細胞の断層像を取得可能
(2)蛍光観察では限られた成分の観察しか行えない。
→細胞小器官などの成分の違いを、3次元位相差像として可視化
【今 後】
皮膚の透過性の高い赤外光による、生体膜の分光断層像観察技術を目指している。
近年、近赤外光で網膜などの断層イメージを取得する光トモグラフィの臨床応用が広がっている。光コヒーレンストモグラフィ(OCT:Optical Coherence Tomography)は、眼科では不可欠な診断技術として定着し、さらに動脈硬化の診断に利用されようとしている。しかし、従来のOCTは形態しか計測できない。そこで、本研究成果である分光技術を赤外域の分光トモグラフィ技術へ発展させ、形態と成分の同時計測技術へ発展させる。
添付資料:
図3 赤外域における分光断層像計測(形態と成分の同時計測)
【備 考】
本成果は,新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)平成16年度産業技術研究助成事業による研究成果です。
なお、以上の研究に関して、第54回応用物理学関係連合講演会(会期:3月27日~30日、会場:青山学院大学相模原キャンパス)、2007年度精密工学会春季大会(会期:3月20日~3月22日、会場:芝浦工業大学豊洲キャンパス)にて講演を行う。
*添付資料あり。