富士通研究所、高出力窒化ガリウムHEMTの高信頼性技術を開発
窒化ガリウムHEMTの高信頼性技術を開発
~200度の高温で100年を超える世界一の長寿命を達成~
株式会社富士通研究所(注1)は、高出力窒化ガリウム(注2)高電子移動度トランジスタ(HEMT)(注3)の高信頼性技術を開発し、量産化に目処を立てました。
本技術を用いることにより、200度(℃)という高温使用時においてもドレイン電圧50ボルト(V)で100年を超える世界一の長寿命を実現しました。今後、衛星通信(VSAT)や、次世代携帯電話基地局、WiMAX(注4)基地局などに代表される高速通信市場へ今回開発した窒化ガリウムHEMTの適用を目指します。
◆背景と課題
無線通信の高速化に伴い、携帯電話を始めとする無線基地局の消費電力は増大しています。窒化ガリウムHEMTは、低消費電力化を実現する技術として次世代高速通信用高出力増幅器への適用が期待されています。窒化ガリウムHEMTは、特に高出力・高耐圧素子として使用されるために、高温かつ高いドレイン電圧条件という、より過酷な使用条件を想定して高い信頼性(長寿命化)を確保する必要があります。
◆開発した技術
今回、長時間の信頼性試験を実施し、解析を行った結果、窒化ガリウムHEMTにおいてゲートの漏れ電流と信頼性の間に相関があることを見出しました(図1)。さらにこのゲートの漏れ電流増加の原因が結晶品質と窒化ガリウムHEMT構造に起因していることを突き止め、結晶品質の向上とともに、当社独自のn型窒化ガリウムを表面層に使用した表面トラップの少ない窒化ガリウムHEMT構造(図2)において電界緩和のために層構造の最適化を行いました。
(図1)信頼性とゲート電流の関係
(図2)窒化ガリウムHEMT構造
※関連資料参照
◆効果
今回開発した素子を用いて300℃を超える高温ピンチオフ試験を実施した結果、チャネル温度200℃において100万時間を超える高い信頼性を有していることを確認しました(図3)。これは、100年を超える寿命に相当するもので、世界一の信頼性となります。
ピンチオフ試験は、チャネルが高抵抗となり、トランジスタのゲート電極のドレイン端に大きな電界がかかるため、信頼性試験上最も厳しい試験方法です。この試験方法で、かつドレイン電圧50Vという厳しい条件下でこれほどの寿命を示したのは世界で初めてです。これまでは28Vが最大でした。
(図3)高温ピンチオフ試験
※関連資料参照
◆今後
今後、今回の高信頼性技術を用いて次世代高速通信に向けた窒化ガリウムHEMTの開発を進めていきます。
以上
[注釈]
注1 株式会社富士通研究所:
代表取締役社長 村野和雄、本社 神奈川県川崎市。
注2 窒化ガリウム:
ワイドバンドギャップ半導体で、シリコン(Si)やガリウム砒素(GaAs)など従来の半導体材料に比べ、電圧による破壊に強いという特長がある。
注3 高電子移動度トランジスタ(HEMT:High Electron Mobility Transistor):
バンドギャップの異なる半導体の接合部にある電子が通常の半導体内に比べて高速で移動することを利用した電界効果型トランジスタ。1980年に富士通が世界に先駆けて開発し、現在、衛星放送用受信機や携帯電話機、GPSを利用したナビゲーションシステム、広帯域無線アクセスシステムなど、IT社会を支える基盤技術として広く使用されている。
注4 WiMAX:
Worldwide Interoperability for Microwave Accessの略。ノートパソコンや小型端末に搭載される無線データ通信装置で、無線インターフェースがIEEE802.16およびIEEE802.16e規格に準拠したものの総称。WiMAXフォーラムが装置やネットワーク等を認証する。
[関連リンク]
・株式会社富士通研究所
http://jp.fujitsu.com/group/labs/
(※ 図1~3は関連資料を参照してください。)