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2025'02.03.Mon
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2007'08.16.Thu

理化学研究所、遺伝子のわずかな違いがわかる色素を開発

遺伝子のわずかな違いがわかる色素を開発
- 1塩基の種類を識別して発光する新たなDNA試薬に - 
 

◇ポイント◇ 
 ●色素、オングストロームスケールの環境変化を感知 
 ●診断システムは遺伝子の塩基1個の違いをライトアップして知らせる 
 ●遺伝子診断法が大幅に簡略化し、個別化医療への展開に期待 

 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、わずかな空間の環境(極性)を感知して発光する「プロダン」と呼ぶ色素を人工的にDNAへ導入したDNAプローブ(DNA試薬)を開発し、遺伝子の塩基1個の違い(1塩基多型(SNP)※1)をライトアップして知らせるシステム原型が完成しました。これは、理研フロンティア研究システム(玉尾皓平システム長)岡本独立主幹研究ユニットの岡本晃充独立主幹研究員と日本大学(小嶋勝衛総長)工学部次世代工学技術研究センター齋藤烈教授による共同研究の成果です。
 現在の遺伝子多型診断法は、測定する遺伝子の断片にシアニン色素などの蛍光色素でラベル付けしたあと、測定前に不要なラベルを洗い落とす方法がよく使われます。しかし、この手法は、人手をかける工程を採用しているため、測定誤差が大きくなることが問題となっています。
 研究グループは、色素の「微視的環境応答性※2」を応用し、色素を連結した人工DNAと標的遺伝子サンプルを結合(ハイブリダイゼーション※3)させ、塩基配列の中の特定の1塩基の種類を蛍光の強さで判別できるようにしました。導入した色素の「微視的環境応答性」が、色素と結合したヌクレオシドの相手になる塩基の種類に応じて作り出すオングストロームレベルの構造のブレを検知し、色素の蛍光強度を変化させます。このため、単に標的遺伝子サンプルにプロダン連結DNAプローブをハイブリダイゼーションさせて、その蛍光強度を測定するだけで、遺伝子の特定の位置の塩基の種類を判別することができます。目的の塩基を特定したときにだけライトアップする本方法は、サンプルのラベル工程やその洗浄工程が不必要で、測定手順を大きく簡略化することができました。
 研究グループは、さらに4種類の塩基をすべて判別できるように、それぞれに対応した色素ヌクレオシドを化学合成しました。遺伝子の1塩基の違いの積み重ねは、疾患のかかりやすさや薬物代謝の効率に強く影響しています。今回開発した方法は、簡便な1塩基診断に威力を発揮し、オーダーメイド医療の実現に貢献することが期待できます。
 本研究成果は、米国の科学雑誌『Journal of the American Chemical Society』(5月2日号)に掲載されます。 

1.背景 
 これまで、遺伝子の配列や働きを調べるため、DNAやRNAの核酸を蛍光ラベルして、それとハイブリダイゼーションできる標的核酸を検出する方法が、数多く研究されています。しかし、1塩基多型(SNP)のように、長い遺伝子配列の中からたった1つの塩基の違いを検出するためには、サンプルごとにハイブリダイゼーションさせる条件を、より厳密に設定することが必要です。DNAチップやミニシーケンシングなどの手法の研究が進んでいますが、それでもなお、サンプルごとのラベルの粗密・ミスハイブリダイゼーション・洗浄誤差などによって生じる高い測定誤差が解決されていません(図1)。DNAやRNAの相補鎖上の核酸塩基に応答して、蛍光発光・消光する分子システムを構築することができれば、ハイブリダイゼーション効率に依存することなく、特定の塩基の種類を蛍光発光によって決定できます。このような手法を用いることで、サンプルラベル工程の省略・ミスハイブリダイゼーションの回避・洗浄工程の省略が可能になります。 

2.研究内容 
 研究グループは、問題解決のため、DNA二本鎖中の微視的環境の違いに応じて蛍光体の発光量が変化するという原理を活用し、色素が特定の塩基配列を認識して蛍光を発光させ、それ以外の塩基では蛍光発光を起こさないというシステムの開発を行いました。具体的には、人工DNAプローブに連結した「微視的環境応答性」色素が、色素と結合したヌクレオシドの相手になる塩基の種類に応じて作り出すオングストロームレベルの構造のブレを検知し、その結果、色素の蛍光強度が変化する、という機能を見いだし、遺伝子多型診断に応用しました。本システムは、PCR※4などで増幅した標的塩基配列を蛍光剤でラベル化すると、ラベル化量の粗密が生じるなど、これまで問題を抱えていた工程を省きました。さらに、鎖長、温度制御、塩濃度などハイブリダイゼーションにかかわる諸条件を厳密に決定する作業も割愛することができました。つまり、従来の手法におけるバックグラウンドエラーを回避することができたといえます。このため、今回開発した手法は、これまでの核酸検出法とは一線を画するものであり、非常に革新的なシステムとなりました。
 研究グループは、微視的環境応答性色素「プロダン」を含む核酸ヌクレオシド4種(チミン、シトシン、アデニン、グアニンに対応、図2)を新たに化学合成し、これらの蛍光ヌクレオシドの光物理学的物性を測定しました。その結果に基づき、これらを含む人工DNAを作成し、サンプルDNAとハイブリダイゼーションさせて蛍光挙動を観測しました。また、研究グループが既に開発した「塩基識別型蛍光性核酸プローブ」※5と組み合わせた測定を行うことによって、マルチカラー1塩基多型解析を実施しました。測定には、紫外光照射・蛍光測定が可能である一般的な分光機能を含む装置を用いました。 

3.研究成果 
 まず、色素「プロダン」を含む核酸ヌクレオシド4種を化学合成し、それらの光物理学特性を調べたところ、色素を取り囲む微視的環境の変化が、予想通り励起スペクトルや蛍光スペクトルの波長や強度に大きく反映されていました。続いて、DNA自動合成機を使って、この色素をDNAに導入しました。一般にオリゴDNAを合成する方法とまったく同じ方法を用いて、色素連結DNAを高い効率で得ることができました。今回得た人工DNAは、サンプルDNAと中性緩衝液中でハイブリダイゼーションさせました。まず、励起スペクトルの赤色端での励起によるその蛍光挙動を調べたところ、色素を含む塩基の相手側の種類に応じて、蛍光強度が大きく変化しました。特に、相手側の塩基とワトソン・クリック型塩基対※6を形成する場合には、形成できない場合に比べて、2倍以上の強い蛍光を観察しました。
 さらに、相手側の塩基との水素結合形成の有無に由来するわずかな構造変化が、蛍光強度に強い影響を及ぼすため、この蛍光変化から、遺伝子配列中の1塩基の違いを蛍光で区別することができました。
 具体的には、研究グループは、メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素※7に関連する遺伝子に含まれる1塩基多型を、この蛍光性DNAとハイブリダイゼーションさせるだけで簡単に判別することができました。この1塩基多型判定法は、サンプルと単に混ぜるだけで測定が可能で、従来法に必要であった測定サンプルの標識工程や洗浄工程を省略しています(図3)。また、研究グループが以前に開発した波長の異なる塩基識別型蛍光性核酸プローブと組み合わせることによって、マルチカラー(多波長)1塩基多型解析も可能にしました。このシステムで、メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素関連遺伝子の同時アレル解析を行い、測定結果を遺伝子型ごとにクラスター化することができました(図4)。 

4.今後の期待 
 研究グループが開発した本システムは、従来型にみられたサンプルごとのラベルの粗密・ミスハイブリダイゼーション・洗浄誤差によって生じる誤差を回避することができます。特に、プロダン連結DNAプローブを使うことで、1塩基多型解析の簡略化、測定時間短縮化に大きく貢献することが期待されます。
 今後は、ハイスループット※81塩基多型解析システムの構築に向けて開発を続けるとともに、本システムを1~2年以内に実用化させることを目指していきます。  


<補足説明>
※1 1塩基多型(SNP) 
 私たちの顔が個々人で異なるように、ヒトのゲノムの塩基配列も、それぞれで微妙に違っている。こうした個々人の遺伝的な違いは、多型と呼ばれ、特に1塩基多型(SNP)は、ヒトゲノムに0.1%(つまり1,000塩基に1塩基)の頻度で現れる最も頻度の高い多型である。近年、親子・兄弟・双子間など家族内のSNP研究によって疾病の罹りやすさ、背丈・髪などの身体的特徴、体質などにSNPが影響することが明らかになり始めた。また、いくつかの薬物代謝酵素について、SNPが人種により質的あるいは量的に異なることが示されており、そのことが薬物代謝反応に人種差を生じる原因の一端を担っている可能性が示唆されるようになった。
 
※2 微視的環境応答性 
 色素周辺のわずかな空間「ナノ空間」の極性や粘性など物性環境の変化に応じて、蛍光強度や蛍光波長が変化する色素の性質を指す。
 
※3 ハイブリダイゼーション 
 DNAは、2本の鎖からできている。それぞれの鎖が塩基対間の水素結合を介して結合し、2重らせん構造を形成することを、ハイブリダイゼーションという。本件では、ターゲットの1本鎖DNAと色素連結DNAプローブによる2本鎖構造の形成のことを指す。
 
※4 PCR
 ポリメラーゼ・チェイン・リアクション。DNA合成酵素を用いた代表的なDNA増幅法。
 
※5 塩基識別型蛍光性核酸プローブ 
 研究グループが開発した核酸プローブであり、色素を含む塩基の相手側の塩基の種類によって蛍光強度を変化させる。つまり、ターゲットになるDNAと塩基識別型蛍光性核酸プローブをハイブリダイゼーションさせたときに、安定な水素結合(塩基対)を形成していると強い蛍光発光を示すが、塩基対形成が弱いと蛍光発光が抑制される。核酸プローブはすでに10数種類開発されている。今回開発した「プロダン」DNAも、広義では塩基識別型蛍光性核酸プローブの仲間に入るが、その蛍光発光メカニズムは若干異なる。
 
※6 ワトソン・クリック型塩基対 
 DNA二重らせん構造を形成するための最も標準的な塩基の組み合わせ。グアニンとシトシン、アデニンとチミンのそれぞれ2つの塩基の間に水素結合と呼ばれる弱い相互作用が存在し、対をなしている。
 
※7 メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素 
 5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸を還元し5-メチルテトラヒドロ葉酸を与える酵素。この酵素の異常は、先天的代謝異常のほかに糖尿病や片頭痛などにも関与するといわれている。 
 
※8 ハイスループット解析 
 多項目同時解析のこと。DNAチップのように、1検体を複数の項目について同時に解析する手法。

 
●図1 検出法の比較 
 従来法(DNAチップを例に):(1)測定DNAに標識(標識効率にムラ有)。(2)捕捉プローブとハイブリダイゼーション(2本鎖の熱的安定性の差を使って目標のDNAを捕らえる。1塩基の違いだけに基づく熱的安定性の差は小さく、その結果ミスハイブリダイゼーションが起こりやすい)。(3)非特異的吸着・ミスハイブリダイゼーションを起こしたサンプルDNAを洗浄によって洗い落とす(洗いすぎても問題。正しくハイブリダイゼーションしたものとミスハイブリダイゼーションしたものでは熱的安定性が小さいので、洗浄行為でそれらを区別することは容易ではない)。
 新しい方法:(1)標的になる塩基の相手側に色素が1つ導入されたプローブを設計。(2)標的のDNAとハイブリダイゼーション。(3)標的の塩基の種類に応じて蛍光強度が変化。(4)非特異的吸着・ミスハイブリダイゼーションを起こしても蛍光発光せず、またハイブリダイゼーションしていない状態でも蛍光発光しないので、洗浄の必要が無い。
 実験者の手による実験誤差が大きく解消され、信頼性の高いデータが得られる。
 
●図2 色素「プロダン」を含む核酸ヌクレオシド4種 
 
●図3 測定手順の比較 
 
●図4 メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素関連遺伝子のマルチカラー(多波長)1塩基多型解析の結果
 1塩基多型(グアニンかアデニン)を含むメチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素関連遺伝子断片(25サンプル)に対して、異なる蛍光波長を持つ2種類のプローブをハイブリダイゼーションした。
 プローブ1:以前作成したグアニンを検知するピレンプローブ(410nmの波長での蛍光を検出。
 プローブ2:今回作成したアデニンを検出するプロダンプローブ(510nmの波長での蛍光を検出)。
 蛍光強度に応じて1対のアレルが、同じグアニンの場合(G/G)、1対のアレルが同じアデニンの場合(A/A)、1対のアレルが異なる場合(G/A)の3つのクラスターに分類できた。「control」は、プローブだけで測定した空実験。

(※ 図1~4は関連資料を参照してください。)

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